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⑤
前方のドアから乗り込むと電子マネーで運賃を払い後ろの行列に押されるように奥の方まで進んで手摺を掴んだ。外を見ると窓ガラスを叩くように更に雨脚が強くなっている。ドアが閉まって出発すると乗れなかった人が数人バス停に残っていた。いつもこんな満員なのか? それとも雨のせいなのか? この混雑は京都のバスを思い出す。
信号が黄色から赤に変わった。ブレーキが踏まれて車内が揺れると軽く持っていた傘が左手からこぼれて前に座っていた女性に倒れた。
「あっ、すいません」
急に傘が倒れてきた女性はビックリして顔をあげた。
「あっ、」
「どうぞ」
笑顔で渡された傘を受けとった。
「ありがとうございます」
歳は日向より少し下くらいか? 「いえ」また笑顔で返した女性は下を向いた。
色白でショートボブがよく似合っているその女性に日向の意識は釘付けになった。
もう一度顔を見たい衝動に駆られたが駅に望み叶わずバスは駅に着いた。
バスを降りて駅に向かう途中、振り向いてもう一度顔を見たい気持ちを押さえ駅のホームを降りた。
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