4人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
真面目な顔になり、天を仰ぐ。
「アンタの絵が好きだった、
って言ったら? 」
「え? 」
「なんちゃって!
本気にしちゃった? 」
梨花はいつもの笑顔に戻った。
“アンタの絵が好きだった”
不意に清久の中に昔の光景が浮かぶ。
──ねえねえ、これ見て?
──わぁ!キヨ、絵が上手〜!
梨花がノートを見せてきたセリフは
小学生の自分が良く
発していたものだったのだ。
清久は何か絵を描く度に
彼女に見せていた。
思考が過去に戻っている間に
気づけば梨花は居なくなっていた。
その時、胸元のスマホから声がする。
《先輩!先輩ってば! 》
筒井……
しまった、梨花を手放した。
清久は小声で怒鳴る。
「今すぐロッカーを離れろ!
計画は延期、また今度にしよう」
《…………》
無言。
沈黙を了解の証と思ったが
不意にスマホから声がした。
《……いいえ》
「え?」
《今やり抜きます、
“弱み”を利用する人間を私は許せません》
「筒井……」
《先輩も諦めないで》
清久は拳を握った。
もう伸るか反るか。
最初のコメントを投稿しよう!