先輩

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先輩

 私が光輝先輩と出会ったのは、偶然だった。  いや、むしろこれは運命と言った方が正解かもしれない。二ヶ月まえ、大学の選択授業の大教室で彼の姿を見た瞬間、私のなかに電撃が走った。 「あっ、いた」  これが最初の感想だった。過去にあまりいい出会いをしてこなかった私だったが、今までの微妙な出会いはすべてこのときのために神様が運をとっておいてくれたんだろうと思った。  黒髪のセンターパート。切れ長の奥二重の目。スッと鼻筋が通っていて、唇がぽってりと赤い。色白の肌は透明感がありすぎて、向こうの壁まで透けて見えちゃいそう。まさしく、私が探していた男性そのものだった。 「でも……」  そうは言っても、いきなり話しかけるなんてできない。そもそも、なんて話しかけよう? 「ようやく見つけましたカッコハート」  なんて言うわけにもいかないしな。  悩んだ。私はひとりで授業を受けてるし、共通の知りあいなどこの場のどこにもいない。彼との接点は今のところ、同じ授業を受けているということしかないのだ。  しかも悪いことに、彼は友達らしき人と一緒にいる。 「なあ、サークルのクリスマス飲み会どうする?」  彼のとなりの男の子がたずねる。こっちはどんぐりみたいな顔のにきび面だ。 「うーん、そうだなあ。おれはパス」  涼しげな顔で返事をする。 「なんだよ、つきあい悪いな。おまえ、今、彼女いないんだろ」  ここで私の耳がダンボになる。彼女がいないということは、お近づきになれるチャンスがあるということだ。でも、どうやって? 私はシャイだぞ。臆病だぞ。  なんてことを考えているうちに、授業終わりのチャイムが鳴った。まわりの人たちがぞろぞろと大教室を出ていく。私は彼の姿を凝視していた。目はハートになっていなかったと思う。 「じゃあ、おれは次の授業があるから」  彼のとなりのどんぐりくんが立ちあがる。彼は言う。 「おれは授業もないし腹へったし、学食でも行こうかな」 「じゃあ、またあとでな」  どんぐりくんが教室を出ていく。ゆっくり彼も立ちあがる。  学食!  私はその単語を聞き逃さなかった。ちょうど私も次のコマは授業がない。慌ててコートを着てマフラーを巻くと大教室をあとにした。
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