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共通のスタンプ
「あ、これ」
ここでも運命を感じた。それはブサカワなパグが気だるそうに「よろしくな」と言っているスタンプだった。私は反射で「ふぁっくゆー」とそのパグが言っているスタンプを送り返す。
「同じやつじゃん」
先輩の声が弾む。
「このスタンプ、昔から好きでよく使っているんです。妹にも『なにそれ』って言われていたんだけど、なんかこの気だるそうな感じと、ぶっきらぼうな台詞がくせになっちゃって」
私が説明すると光輝先輩は「わかるわかる」と同意した。
「おれはこれを人にプレゼントされたんだよね。『やる気なさそうで言い方もかわいくないんだけど、なんかくせになるんだよ』って。それに、この弱そうな『ふぁっくゆー』は、おれもよく使うよ。面倒くさいときとか、全部これで返すと許される感じがして……って、もしかして比奈ちゃん、今、おれのこと面倒くさいって思ってる?」
「え、や、そ、そんなことないです!」
慌てて否定する。
「あはは。冗談だよ」
光輝先輩が笑う。先輩のスマホが再度、メッセージを受信する。私は送ってないのにな、なんて思っていると先輩が言った。
「あ、友達だ。ごめん。授業、終わったみたい。じゃあ、また来週。あ、そうだ。これあげるよ」
そう言って私のまえに新品のお茶のペットボトルをおくと、食器を片づけ学食を出て行ってしまう。
「あっ……」
私はもっと話しをしたかったけれど、無理に引き止めることはしなかった。まあ、いいか。連絡先も聞けたことだし、共通の話題も見つかったし、これから頑張ろう。
そんなふうに心に誓って、ホットドッグを力いっぱい噛みちぎった。
その日の夜に、光輝先輩にあらためてメッセージを入れた。今夜はバイトがないから、お風呂も早めに入ってさっぱりしている。
「今日はありがとうございます」
すぐに『いいってことよ!』とパグのスタンプが返ってくる。初日はこんなものでいいだろう。あまりぐいぐいしても、怪しまれちゃうもんね。私は『失礼する』という台詞のついたパグのスタンプを送るとメッセージアプリを閉じ、写真フォルダを開く。これは私のただのくせ。ディスプレイに映りこむ眉なしすっぴん毛穴全開の私の顔にかぶさるように、今年の八月に妹から送られてきた満面の笑みの画像が表示される。制服姿のJKは若いな。たった二歳しか違わないのになんて思うとやるせなくなった。
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