先輩の秘密

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先輩の秘密

 その日から、光輝先輩と日常のメッセージのやり取りをするようになった。もっとも、向こうからメッセージがくることはあまりない。私から積極的にメッセージを送る格好だ。先輩からの『ふぁっくゆー』のスタンプがこないということは、少なくとも面倒くさいとは思われていないということだろう。  時間はゆっくりとすぎ、十二月も後半戦。大学の後期の授業が終わった。年明けにテストが控えているが、ひとまず学校は休み。私は、大学がない日も先輩にメッセージを送り、いろいろな質問をした。自分の話はなるべくせずに、先輩にたくさん話してもらう。『恋愛上手は聞き上手』という台詞を過去にどこかで聞いた気がする。相手が気持ちよく話せる状態を作るのがいいらしい。  光輝先輩は、私にいろいろなことを話してくれた。自分の授業のスケジュール、効率的な単位の取り方、テスト勉強のコツ、それに大学のサークルの力関係のことなど。もちろん先輩のプライベートなことも話してくれた。住んでいる場所、自身のバイトのこと、そして過去の恋愛の話なんかも。 「そういえば、傷心中って言ってましたよね」 「ああ、それはね」  なんだか言いづらそうにしている。返事を待っていると、数分後に長文が返ってきた。 「じつは、つきあってたわけじゃないけど、おれのことを好きって言っていた子が亡くなっちゃったんだ。面倒くさいくらいつきまとっていたのに、ある日、とつぜん連絡が取れなくなったと思ったら、しばらくしてみずから命を絶ったみたい。悩みでもあったのかな。亡くなるずいぶんまえからおれのことをブロックしていて、連絡先も消していたみたい。それを知ったのはつい最近なんだけど」  先輩はそのまま立て続けに『つまらないな』というパグのスタンプと『すまんな』というパグのスタンプを送ってきた。  彼にとってその恋愛はすでに過去のことになっているのだろう。だが、私は内心穏やかではなかった。聞いてはいけないと思いつつも、いらぬことを聞いてしまう。 「もう、その人のことは平気なの?」  ほぼ即レスで『うむ』というパグのスタンプが飛んできた。先輩の気持ちが、どちらなのかわからない。だが、この状態でぐいぐいいくほど、私だってデリカシーがないわけではない。その日はここでメッセージのやり取りを終了した。
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