帰省

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帰省

 なにもないままクリスマスがすぎ年が明ける。年末年始はバイトを集中的に入れていたので、正月明けに日帰りで実家に行った。リビングでパパとママが迎えてくれる。妹はいない。 「はい、お年玉」  そう言ってポチ袋を渡してくるが、私はもう大学生だ。アルバイトだってしている。 「私はいらないから、里奈にあげなよ」  そう言うと、二人は穏やかな顔で「そうだね」と言った。数時間後、妹に新年の挨拶をすませると、お雑煮だけ食べて一人暮らしのアパートにその日のうちに戻った。家を出るときママが、インスタント食品を袋いっぱいに持たせてくれた。 「あなたは里奈と違って料理ができないから心配で」  私は「ありがとう」と言った。  数日後、光輝先輩からメッセージがあった。 「おれが一年のころに手に入れた必修科目のテストの解答があるからあげるよ。毎年同じ内容のテストだから、これさえあれば単位が取れる」  そう言ってPDFファイルが送られてくる。  私はここだ、と思った。勇気を出して提案する。 「先輩、お礼も兼ねて二月十四日に渡したいものがあるんです」  そのタイミングでは大学がすでに春休みに入っている。先輩のヴァレンタインデーの予定をリザーヴしておきたかった。 「なんでその日がいいの?」  そのあとに、パグがハテナマークを持っているスタンプが送られてくる。本当にわかっていないのだろうか。光輝先輩は超がつくほど鈍感だった。  だけど、今はそれでいい。決戦はヴァレンタインデーなのだ。私は先輩に本当の気持ちを伝えないまま、二週間、お菓子作りの練習をひたすら頑張った。インターネットで味が誤魔化しやすいお菓子を検索して、作るものを決定する。  私が見た情報だと、チョコレートは湯煎して固めなおすだけというだけあって、余計なことをするともろに味の良し悪しが出てしまうということだった。  昔から里奈にも「レシピ通りに作らないから失敗するんだ」と口を酸っぱくして言われている。だが、それなら失敗しないものを選んで作ればいいだけだ。開きなおった私はありとあらゆるサイトを調べ尽くして、バターたっぷりのクッキーを作ることに決定した。
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