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決行
光輝先輩は、居酒屋を出ると手を繋いできた。それも、指と指を絡める恋人繋ぎ。ぎゅっと握って離さない。そんなの、ずるいよ。私たち、つきあってないのに。なんて思っているうちに、先輩の住むアパートに到着した。なんの変哲もないアパートでオートロックもなければ監視カメラもない安アパート。その一階の角部屋が先輩のひとり暮らしの部屋らしい。
「おじゃまします」
玄関に入った瞬間、先輩が私を押し倒す。フローリングに仰向けになった私のコートを先輩が脱がそうとする。先輩は馬乗りになり無理やり私を押さえつけた。
「いいよね?」
私は答える。
「わかりました。でも、そのまえに……」
床に転がるバッグに目をやる。
「私、先輩にヴァレンタインのクッキーを作ってきたんです。まずは、これをもらってください」
そう言って起きあがり、前日に苦労して作りあげた特製クッキーを渡す。
「あ、ありがとう」
先輩は私のうえから降りてラッピングを開けた。なかから星型のクッキーが出てくる。
「私が一生懸命作ったんです。だから、今、食べてください」
料理下手な私が作ったクッキーは、一日たっても変色したり悪臭がしたりしているわけではない。
「いただきます」
先輩が私の手作りクッキーを口に運んだ。私は、先輩の一挙手一投足から目を離さなかった。
「どう? 美味しい?」
ドキドキしながら心のなかで聞いてみた。
「うっ……!」
先輩の表情がくるくる変わった。
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