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「おい、どうするよ?」
「なんて、こった…… 」
「なんだよ、天気予報違うじゃねぇかよ! 」
「朝の予報だって、大雨になるって言ってたのに…… 」
「ついてねぇ…… 」
「やっぱ、ダメかぁ」
「イケると思ったんだけどなぁ」
「チッ」
「天に祈ろう」
「監督、どうしますぅ? 」
「どうするったって…… 」
「おい、バックスクリーンの方、見てみろよ」
全員、板橋先輩が指差す方向を見た。6回表まで進んだスコアボードにはゼロが並んでいる。たった一つだけある「1」は、1回の表に僕たちのチームがもぎ取った一点だ。その「1」は、僕たちの希望でもある。そして、その上空、すこし遠くの空には色の薄い雲がかかっている。雨も弱まって来た。
「頼むから晴れないでくれぇ…… 」
「お願いです、神様。番狂せを起こしたいんです…… 」
「せっかく、ここまで頑張ってきたのに…… 」
上田先輩たちが嘆くのも無理はない。今日は甲子園常連校・西海大武蔵高校相手に大雨の中、ここまで強力打線封じ込めて来たんだ。それも大雨による早い回でのコールドゲームを想定して、ここまでできるだけのことをした。左投手の上田先輩は西海大武蔵の左バッターに対してのみ投げ、右の珍しい変則ピッチャーの塔沢は右バッターにだけ投げた。宮下はカーブだけはプロ級で、西海大武蔵野下位打線とだけ対戦した。いまのところ、相手は無安打だ。
「もう、1回表の作戦は通用しないからなぁ」
「当たり前だ、相手がオレたちを舐めてたから取れただけだ」
「あれ以降、一人も塁に出てないもんな」
「二打席目、カスりもしなかったよ。一打席目、必死でくらいつたんだぜ、俺。普段、野球なんかやったことないからさ」
僕たちは脚だけはとんでもなく速い、サッカー部の大平を1番バッターにした。器用なヤツだったので、すぐにバントを覚えた。今日もセーフティバントで内野安打となり、そのあと盗塁を二つ決めた。そこで僕がスクイズを決めて、一点を取った。それだけでもYahooニュースにはなりそうな気がする。でも、これは強羅監督が考えた作戦通りだった。これでこの後、大雨による降雨コールドで勝てば、僕たちの考えた通りだ。
「プレー再開しちまったら、西海大武蔵の打線は抑える自信ないよ」
「三回り目だもんな、打順」
「プレー再開したら、オレたち反撃くらうよな」
「逆にコールドやられるかも……」
「嫌だなぁ…… デジタルタトゥーみたいになるのは…… 」
「大雨になるんじゃなかったのかよ…… 」
「雨が上がっちまったら、総攻撃が始まるぞ、きっと」
「ドラフト候補が四人いるって、どういうことなんだよ」
監督と十二名の急造野球部員たちが空を見上げたままの状態が続く。
「雨、上がんじゃねぇっ!! 」森主将が叫んだ。
その途端、雨足は急に弱まった。そしてすぐに雨は止んだ。
雨上がりの空を、口を開けたまま見上げる13人がいた。
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