祭りの晩

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祭りの晩

「あっ。ねぇねぇ、晃司くん。さっきの見た? すっごい大きかった」    どぉんと響く低音に負けないように声を張り上げる。すぐ隣にいるのに声を届けるのは難しいように思えて、バシバシと手のひらで肩を叩きながら。すると晃司はわたしの声をちゃんと受け取って、そして返してくれた。   「見てるから落ち着けって」    笑いながら言った言葉と呆れたような表情に、わたしはなんだかほっとして笑みを返す。打ち上がった花火がそれを照らしてくれて、ほんのひととき、わたしたちは見つめ合った。      今日は地元のお祭り。仲の良い友だちふたりと行こうって話をしていると、たまたま近くにいた男子たちがそれなら一緒に行かないかと話しかけてきた。そうしてわたしたちは計六人で行くことになったのだった。    夕方に集まると、河岸で打ち上げられる花火が見やすい土手までゆっくりと歩いた。りんご飴やたこ焼きなんかのたくさんの屋台や、時々すれ違う浴衣姿の人。そんなことが非日常感を誘って妙に気持ちが盛り上がる。浮足だった心地で賑やかに話をしたり屋台を覗きながら、結局、土手に着く頃にはみんな、クレープやら唐揚げやらを手にしていた。    やがて日は沈み、空は青から灰色に、そして真っ黒に染まっていった。暗くなるにつれ、周りの雰囲気は落ち着きのないざわめきへと変わっていく。いつもなら暗闇は静けさを連れてくる。だけど今日は違うと、ここにいる全員が知っている。暗闇は花火という空に散らばる光を美しく魅せる最高の舞台だと。その証拠に、どぉんという大きな音を響かせて最初の花火が上がると、ざわめきは歓声に変わった。色を変え、形を変えて何度も咲く夜の花に、周りはみんな夢中になった。  そんな中でわたしはこっそりと目線だけを隣に向ける。晃司くんはほかの人と同じく、まっすぐに夜空を見上げていた。どぉん、どぉんとお腹の底を震わせるような音に花火の存在を感じながら、わたしは彼を見る。少しクセのある短い髪も意志が強そうなつり目も、普段はこんなにじっと見ることなんてできなかった。  視線に気付いたのか偶然か、その時晃司くんがふとわたしの方を向いた。見ていたことがバレたのかと急に気まずくなって、わたしは慌てて声を張り上げた。   「あっ。ねぇねぇ、晃司くん。さっきの見た? すっごい大きかった」    照れ隠しにバシバシと肩を叩くわたしに苦笑いする顔に、なんだかとても嬉しくなった。
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