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暗闇を照らす花
無意識に足を止めていたわたしに、後ろから来た人がぶつかって追い越していった。
「ごめんなさい」
いまだぼんやりとしたままでかろうじて謝るけれど、足はやっぱり止まったままだった。晃司くんはそんなわたしの手を取って、河川敷へと連れていく。
人の波から外れた場所は薄暗かったけれど晃司くんはずんずんと進んでいく。やがて人混みの喧騒がほとんど届かなくなった辺りで足を止め、手を取ったまま振り向いた。
「あのさ、おれ、今日冬木と花火見れて良かった」
真剣な顔で言う彼に、わたしは期待と緊張で何も言えなくなる。心の中で小さな花火がパチパチと弾けるようだった。線香花火のように小さな小さな光は、だけど確かな光を放っていた。
「来年も一緒に見たい。……来年は、ふたりで」
繋がれた手が強く握られる。ふわふわと浮き上がりそうになるのを、その手が力強く繋ぎ止めてくれていた。
「わたしも」
夜空に花火が舞う。暗闇を引き裂いて空を明るく染め上げる。
「わたしも一緒に見たい。……あのね、わたし、晃司くんのこと—」
きっとこの花火は終わらない。
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