初恋が生まれた日

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 翌日、腫れぼったい目で登校すれば友達に不審に思われた。  とうとう彼女に振られたのかと思われたらしい。  実際に振られたら、どうなんだろう。  正直、ここまで泣けないような気がする。  時間差で、千歳が教室に入ってくるのが目の端で確認できた。  顔向けできなくて、俺は自分の席に座って俯いたままだ。  たぶんもう、めんどい俺とは友達をやめたんだろう。  しゅんとなっていると、千歳は一旦自分の机に荷物を置いてから、俺の目の前にやってきた。 「あのさぁ。俺こういうの嫌だから」  真っ直ぐな視線をこちらに向ける千歳。  周りの人も何事かと俺たちを振り返り、教室がシンと静まった。 「気まずくなるのとか、嫌だから。お前もそう思うだろ?」 「あ……うん」 「だから、仲直りしよう」  鷹揚なその顔を見て、心臓が鷲掴みされたように痛くなる。なんて馬鹿なことをしたのだと、改めて自分を責めた。  ごめん、俺が悪かったからと心から謝れば、千歳も「俺も悪かった」と笑って謝った。  それからすぐに、という訳ではないが、二人のギクシャクはなくなった。  千歳との喧嘩は、後にも先にもこの時だけ。  友達と喧嘩なんて、人生で初めてしたかもしれない。  バレンタインの日、手作りマフィンをくれた佐久間さんに別れて欲しいと告げた。  こんな勝手な俺を罵って恨めばいいのに、それどころか佐久間さんは妙に落ち着きを払っていた。  全然、心を開いていなかったよねと呆れたように言われ、なんとなく振られそうな気がしていたんだと笑われた。  結局彼女とは、まともに手を繋ぐこともしないまま別れてしまった。  ──何をしてるんだ、俺。  彼女だけじゃなく、千歳のことも傷付けた。  もうそんな思いはさせたくない。  誰かを利用しようとせずに、自分だけの力でできるだけ早く、千歳への恋心へ消せるように努力しよう。そう決意した。  三年に上がったころに別れたことを千歳に伝えたが、根掘り葉掘りは訊かなかった。喧嘩のこともあったから、彼なりに気を遣ったのだと思う。
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