初恋が生まれた日

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 その後は、なぜか三人で本屋に行くことになってしまった。  気まずさから、わざと二人から離れたところに移動して適当に背表紙を眺めた。  文字がまったく頭に入ってこない。  当惑する自分の隣に、気付けば含み笑いをした千歳が立っていた。 「悪かったなぁ。二人の世界に浸ってたところを邪魔して」 「……別に、そんなんじゃないし」 「手ぇ繋いでたじゃんよー」  あぁうるさい。  こうなるから見られたくなかったのに。  自分の眉間に少しずつシワが寄っていく。  不穏な空気を醸し出しているのに気付かない鈍感な男は、構わず話し続けた。 「実際のところ、どこまでいったの?」 「……何?」 「だから、彼女とどこまでいったんだよって」  勢いよく、彼の顔を見上げる。  底抜けに明るい笑顔を振りまいている千歳の瞳に、心外だといった表情の自分が映った。  自分は感情の起伏は激しくない方だと思っていた。  でもどうやら、この人の前では違うらしい。  今まで少なからず、こういう類の質問はされてきた。告白の仕方はどうだったとか、互いの呼び名はなんだとか、どこがどう好きなのかとか。  全部、はぐらかしてきた。  なのに千歳は懲りない。  他人に言われるのならまだしも、千歳にそう訊かれるのが一番嫌だった。 「どうしてそんなことを、千歳に言わなくちゃならないの?」  思い切り嫌な顔をして、そう吐き出した。  さすがに鈍感な千歳も、え、と口元を引きつらせる。  (……ちがう、こんなの)  千歳の友達だったら、こんな反応をしてはいけない。  彼の背中でも叩きながらノリよく答えるべきだ。  なのに自分は、そうできずに目に涙を溜めている。  こちらの異変に気付いた千歳がオロオロとし出した。 「なんだよ、そんな泣くほどかよ?」 「泣いてないし」  ゴミです、と言いながら目をこする。  次から次へと溢れ出る涙を拭う度、千歳も困惑顔になっていった。
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