初恋が生まれた日

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 *  受験生の夏休みは忙しい。  予備校の夏期講習に通い始めた俺たちは、千歳の家で一緒に勉強をすることも多くなった。  休憩時間。食卓に座った俺に突然、千歳母から思いもよらぬ提案がくる。 「創くん。合格したら千歳と一緒に住んであげてよ」 「え……?」 「創くんがうちのバカ息子を近くで監視しててもらえたら、私も安心なんだけど!」 「は、はぁ……」  助けを求めようと、隣に座る千歳をちらりと見る。  千歳も困惑しているかと思いきや。 「同居かー。それいいな! 楽しそうだし!」 「あんた一人だと信用ならないのよ。知ってる創くん? この人、未だに最低三回は起こさないと全然起きてこないんだから。単位落として留年だなんて私は嫌だからね。創くんだったら千歳をしっかり管理してくれそうだし!」 「おぉ、確かに!」  紺野親子はきゃっきゃと盛り上がっている。  一緒に住むって……  ──冗談、だよね?  例えば子供が、将来の夢は特撮ヒーローだとでも言うように。  確かに千歳と一緒に暮らせたら楽しそうだ。  けれどそれ以上に色んな問題もてんこ盛り。  俺は千歳が好きなのだ。 「どう……? やっぱりこんな人と一緒じゃ嫌かな?」  急にへりくだった声を出されて、慌てて否定した。 「そういう訳じゃないです! けど、俺、二人暮らしなんてしたことないから、迷惑掛けちゃうかもしれないし」  千歳母の代わりに千歳が返事をする。 「そんなの、俺だって一緒だよ」 「えっと……例えば、一人でのんびりしたいなと思ったりしても常に俺が部屋にいるんだよ? 落ち着けなくない?」 「んー、もし一人でいたいと思った時は外行くし、お前が常にいて落ち着けないとか、そういうのはないと思うけど」  ちゃんと考えてからそう言われて嬉しくなるけど。  何をどう言っても、親子二人は「大丈夫!」の一点張り。仕方なく首を縦に振ると、盛大に喜ばれた。 「じゃあ、改めて二人共、勉強頑張んなさいね! 目指せ一発合格!」    グッとガッツポーズをする千歳母に、苦笑するしかなかった。  この時は本当に、冗談だと思っていた。  だがめでたく二人に合格の知らせが届いた時から、話はどんどん本格的に進んでいった。  ──早速、お部屋探しよ!  テレビCMでたくさん流れている不動産屋のテーマソングを歌いながらパソコンを立ちあげる千歳母を見て、膝から崩れ落ちそうになる。  (え、本当に? 本当に俺、千歳と一緒に住むの?)
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