初恋が生まれた日

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 あんまり困らせないようにしようと、少しだけ離れたところに座り直した。  千歳へのプレゼントはピアスか、それともマフラーか……などと思案していると、千歳は思いついたように立ち上がった。 「じゃあ、風呂でも入るか。創、先に入れば」 「えっ、いいよ俺は後で。家に連絡入れなきゃだし」 「そっか。じゃあパパッと入ってくる」 「うん……」  直後、俺は目を疑った。  千歳はその場でストリップを始めたのだ。  パーカーを脱ぎ捨て、その下に着ていたTシャツも脱ぎ捨て、半裸の状態になったところで俺は大声をあげた。 「なんで脱いでるの?!」 「え? だから、風呂入るから」 「こ、ここで脱ぐの?!」 「うん。いつもそうしてるけど」  狼狽える俺の目の前で、千歳はベルトの金具にも手をかけ、ズボンを足首から抜いてしまった。紺色のボクサーパンツ姿の彼をしげしげと見つめてしまう。  ついに最後の一枚に手がかかったところで、俺はまるで女子のように両手で目を覆いながらくるりと背を向けた。 「お、お母さんもいるのに全裸でお風呂場まで行くのっ?! 向こうで脱いで入ればいいじゃん!」 「俺のマッパなんて誰も気にしないし、ここで脱いでった方がいいんだよ。脱衣所寒いじゃん?」 「分かったから、早く行って!」 「なに照れてんのー? 男同士なんだから、そんな嫌がんなくてもいいだろー」  千歳は脱いだ衣類を拾い上げて部屋を出ていった……らしい。振り返ると裸が見えてしまいそうだったから、頑なにそちらを向かなかった。  風呂場まで行くまでに体が冷えそうなものだけど、ダダダッと廊下を掛ける足音が聞こえた。  どうやら全裸でダッシュしたらしい。  自分はもう、小学校入りたての頃から一人で入っている。脱衣所で脱ぐのは当たり前だし、親や兄弟にでさえ、全裸なんてもう見られたくない。  何事も、自分の価値観で決めつけちゃいけないんだなと勉強した瞬間だった。  (ところでどうして、こんなにドキドキしているんだろう)  千歳のおおきな腕に抱きしめられて、頭を撫でられる妄想をした。  分からない。どうしてそんなことを思うのか。  胸の奥が、ズキンと重く痛くなった。  けれどそれは、むかしのトラウマからくる嫌な痛みじゃないってことぐらい、この(とし)になれば分かる。  千歳への特別な感情に気付いた瞬間でもあった。  友達になると宣言された日から、自分はどうしようもなく、千歳に惹かれている。  これからどうしたらいいのか、分からなかった。
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