初恋が生まれた日

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 それからなんとなく一緒に、ショッピングモール内をブラブラした。  佐久間さんの友人の好きな色や趣味を聞き出して、一緒にプレゼントを選んだ。  その日の夜から、彼女から頻繁にメールが来るようになった。『今何してた?』とか『大学へはいくの?』などと、クラスのグループメールと同じように他愛もない話をキャッチボールした。  そんなことが続いていたある日、教室ではあまり話しかけてこない千歳が、めずらしく自分の席にやってきた。  机の上に広げていた進路調査票をまじまじと見てくるので、裸を見られているみたいに恥ずかしくなる。 「な、何?」 「へぇ。創、東京の大学行くの?」 「うん。前から、ここに行きたいって思ってたから」 「俺も一緒の所へ行きたい」  語尾に被せられるくらいに唐突に言われ、固まってしまった。  一緒? 卒業したら、もう千歳との接点が無くなるなと寂しく思ってたのに、同じ大学へ行ってくれるの?  嬉し過ぎて破顔した。 「じゃあ、行こうか」 「……うん」  千歳は満足気に頷いて、友人たちのいる、いつもの定位置へ戻っていった。  しばらくはフワフワとした穏やかな気持ちになっていたが、そんな軽いノリで大事な進路を決めてしまっていいのだろうかと、遠巻きに千歳を見ながらより深く考えると、不安が募ってきた。  確かに千歳と同じところへ通えるのは嬉しい。  でもそれって、千歳の人生をそばで見守ることになるんじゃないか。  もし彼にいつか、彼女ができたら?  俺はその時、笑って祝福ができるだろうか。  彼女と一緒にいる時間を大事にしたいから、創とはあまり会えないと言われたら?  途端に怖くなってしまった。  ぴこ、とスマホの着信音が鳴る。 『話したいことがあるんだけど、今日の放課後、ちょっとだけ時間あるかな?』と佐久間さんからメールが届いた。  彼女の俺への特別感情には、なんとなく気付いていた。  きっと自分が千歳を想うように、佐久間さんも俺を想ってくれている。それは奇跡のようで、本当にありがたいことだ。  佐久間さんを好きになれれば、千歳への恋情の息の根を完全に止めることができる気がする。  どこから湧いてくるのか分からない根拠を胸に、今日、彼女の気持ちを受け止めることにした。
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