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あまりにも予想外の言葉が返ってきたので、一瞬時が止まり、それから笑いが込み上げてきた。
「な、なんで笑うんだよ!」
「あはは! だって同じ人なのに、浮気とかいうから……でも、おかげで緊張は解れたかも。ありがとう」
「……緊張してたの?」
「うん、少し。あっ、でも洸哉くんの金髪が理由じゃないからね。自分のことなのに、両親にうまく話せる自信がなくて……」
すると洸哉は衿子の手を取り、彼女が来た方角へと歩き出す。
「どちらかが、じゃなくて、二人で話せば良いよ。お互いに足りないところを補ってさ。きっとこれからはそれが当たり前になるんだ」
あぁ、そうか。自分の両親への挨拶だから、私が頑張らないといけないと思い込んでいた。でも今日はこれからの人生を共に歩く人を家族に紹介し、結婚の許しをもらう日。それは一人では決して出来ないことで、二人を知ってもらうための貴重な時間なのだ。
「そうだね……悩んで損したかも」
その時、空が明るくなり始め、二人は同時に空を見た。黒い雲は姿を消し、青空が見えてくる。
「雨、あがったね」
二人は足を止めて片手で傘を閉じると、再び歩き始める。なんて穏やかな昼下がりだろうーー黒い雲が流れ去り、地上には一筋の光が注がれるのが目に入った。
「さっきの話だけど……私はきっと洸哉くんだから恋をするんだと思う。他の人が金髪から黒髪にしたってときめかないと思うの」
「……あまり俺を喜ばせないでよ。これから挨拶なのに、トチったらどうしてくれるのさ」
「その時は私が助け舟を出すから大丈夫。あっ、そうだ。金髪の写真、見せてもいい?」
「なんで?」
「どっちの洸哉くんもいいでしょって、親に言いたくなってきちゃった」
「……まぁ衿子に任せるよ」
彼はああ言ったけど、私を想って髪を黒くしたのはわかってる。そんなさりげない優しさを知り、彼の思いの丈を感じて、更に彼のことが好きだと自信を持って言える気がした。
「あっ、ようやく晴れた」
これからは二人で歩いていくこの道。来る時は重かった足取りも、ヒールでも軽やかに感じ始めていた。そう呟いた黒髪の洸哉をチラリと見た衿子は、頬が緩むのを感じる。どんな姿であっても、きっと私は何度だって彼に恋をするだろう。
「少し早足になろうか。ご両親を待たせるわけにはいかないから」
衿子は頷くと、洸哉の速度に合わせて歩き始める。それは二人にとって心地よいスピードだった。
これからは二人で歩いていくこの道。来る時は重かった足取りも、ヒールでステップが踏めるほどの軽やかさを感じ始めていた。
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