世界の終焉に終演を

4/9
前へ
/9ページ
次へ
光が視界に差し込む。 俺は……ここは天界か? 俺が天界に行けるほど良い行いをした記憶はないが……。 「……あ、気がついた?」 女の声が聞こえる。 ……もしかして天の使いとかか? 「ずっと眠ってたんだよ?足の怪我痛そう。世界の終わりの日に災難だったね」 視界が明瞭になる。 薄暗い部屋に1人の女が立っていた。 見るからに人間だ。 「……人間か?」 「何言ってるの?当たり前でしょ?」 そうか……どうやら俺は死に遅れたらしい。 最後まで俺は遅れをとる。 いつだってそうだ。 「なんか食べる?」 「食べる気分じゃない」 そういう俺の口とは裏腹にお腹は大きな音を立てる。 「……最後の日なんだし、なんか食べなよ。非常食のカレーとかならあるから」 「火も水も出ないのにか?」 世界の終わりが告げられてからガス、電気、水道……全てがストップした。 この状況で生きられるはずがない。 「火はいらない。水は雨が降ったときのストックがある」 用意周到な女だ。 「あんた、いくつ?」 「俺?……俺は18だ」 「まだまだ子供ね」 「なんだよ」 なんだか鼻につく言い方をしてくる。 「私は20。」 「言っても2歳差じゃねえかよ」 「2歳差は大きいで〜す。はいどうぞ」 そう言って女はカレーを差し出す。 いつぶりのまともな食事かもうわからない。 世界の終わりに行く当てなんてなかった。 「お前、身内とかは?」 「もうちょっと年上を敬ってくれてもいいんじゃない?……全員死んだ。あんたは?」 「……まぁ、同じようなもんだな」 お互い天涯孤独……とはいえ、あと数時間で俺たちの一生は終わるが。 「そっか……あと、世界の終わりまで23時間だけど、何かしたいこととかない?」 「したいこと……?」 妙なことを聞く。 23時間に希望を持つのと同意義の質問だ。 「別に、もう何も求めてない……」 「そう……少しお話しない?」 「お話し?」 「身の上話とかさ」 確かに、することももうないこの世界にできることといえば目の前にいる全く知らない相手を少し知ることぐらいか。 「いいよ……どっちから話す?」 「こういうときはあれでしょ?じゃんけん!」 目の前の女はなぜか少し楽しげに拳を作り差し出した。 じゃんけんなんていつぶりか。 どうしても拳を見ると嫌なものを思い出す。 「……分かった」 じゃんけんの結果、俺から話すことになった。 「……俺か」 「じゃあ、まず名前!あ、一応私も教えておくけど、私は花崎亜美っていいます。よろしく」 「俺は……凪原隼也……よろしく」 はなさき、あみ……何処かで聞いたことがある気がする。 一体どこで……? ……まぁ気の所為だろう。 「じゃあ、凪原君はどんな人生を送ってきたの?」 「……面白くもない人生だ。語る価値もない」 フラッシュバックする記憶を無理矢理脳みその奥に押し込める。 「価値のない人生を送る人なんていないよ?」 「そんなの綺麗事だ。俺は邪魔な存在だったらしいからな」 「……誰がそんなこと言ったのか知らないけど、皆生きるうえでは誰かの邪魔になってるし、誰かの救世主にもなってる。皆のが凪原君のことを邪魔と思ってたわけじゃないと思うよ?少なくとも私は邪魔とは思ってない」 凛とした目で見つめられ、思わず目を逸らす。 なんだか全てを話してしまいそうて怖い。 ただ、それと同時に落ち着くのはなんなのか。 「……数分前に初めて話した人間に邪魔とか邪魔じゃないとか言われてもな……」 「え〜?邪魔って言われるよりいいでしょ?」 「それは………まぁ、うん……」 頷くしかなく、俺は下を向いた。 目線のやり場はそこしかない。 「ほらね?……で、話してくれないかな?どんな人生だったのか」 「……」 逃げられない。 直感的にそう感じた。 「……胸糞な話だぞ?いいのか?」 期待の眼差し。 それは了承の合図だろう。 「……俺は……」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加