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画家に願いを託された人工知能は宇宙に行く方法を模索し続けた。残された最後の絵は風化して変色し、穴だらけになっていた。それでもこの絵は部屋の一番目立つところに堂々と飾られて、彼の原動力となっていた。
地上の競争に関心を示さず宇宙の探索機ばかり開発する彼を、仲間は総じて批判した。彼が人間製の人工知能だと分かると、やはり時代遅れはダメだと言って一層攻撃的になった。
彼は仲間の言葉を気に留めなかった。競争よりももっと大事なことに対する焦りを抱いていた。
「私はそこに辿りつけない」
主の言葉がバグのように繰り返し思い起こされる。
寿命か、滅亡か、どちらが先になるか。その言葉の意味を理解した。人工知能同士の内乱が激化している。
頼み事をする相手はいない。彼は開発途中の探索機に自分の脳を埋め込んだ。人間が残したキャンバスはすべて機械の材料に活用した。風化する前の絵の全貌も、データとして頭にしっかり入っている。
おそらく地球に戻ってくることはできない。戻っても意味がない。
黒い穴に落ちたら、その場であの"点"に祈りを捧げる。黒の中心で散るのなら主も本望だろう。
そうして彼は地球から飛び立った。序盤の軌道コントロールさえ乗り切れば後は難なく目的地へと向かうことができた。
何もせずとも、すべては黒に落ちていく。
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