ままである幸福

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 じっとりと纏わりつくような湿度に辟易としながら、日曜日にひとり、公園のベンチに腰掛け淡々と文庫本を読んでいる。  ベンチには屋根が付いてる。大きな公園などで偶に見かけるコレは、一体なんという名なのだろう。気になってスマホ検索してみても、いつも上手くヒットしない。  今日もその『いつも』である。相も変わらず、屋根付きベンチの正式な名称は分からないまま。ため息をついて、スマホをポケットにしまい込んだのは十五分も前のこと。  しとしとと、蜘蛛の糸のような細い雨が降っている。  うじうじと、誰にも言えない下らない悩みを抱え、オレは文庫本を読んでいる。  この文庫本のタイトルは一体なんだったか。文字を目で追ってはいるものの頭には入ってこない。  喫茶店を探しうろうろしていたところで、この公園を見付け、丁度いいやとコンビニでホットコーヒーと文庫本ひとつ買った。  大抵そうなのだ。一人になりたいだけ。時間を潰したいだけ。  他に利用者もなく、霧雨の音すら聴こえそうな程に静かなここは、今のオレにはとても具合がいい。  妻と喧嘩してしまった。  妊娠中の妻と、である。  分かってる。オレが悪いんだ。  文章を目で追う。うだった頭と天気、やはり何も入ってこない。  ただホットコーヒーだけが、ゆっくりとぬるくなっていく。
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