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№3
「それで、あなた、その後どうしたんですか?」
爺さんは一週間前に体験したというジョギング青年の話の続きを訊こうとした。
「僕ですか? 僕はそのぉ・・こんなこと言っていいのかな?」
「いいも悪いも、ここまで話しておいて気になるじゃありませんか?」
「分かりました、じゃぁ話しましょう。この公園の入口に交番があるの知ってますよね⁉・・そう、その交番に預けて来たんですよ」
「本当? 預けてきたってことは、おまわりさんが預かってくれたんだ?」
「う~ん、そうじゃなくってさ・・奥におまわりさん居るんじゃないかなって何度も叫んでみたんですよ、でもパトロールに出掛けていたのか・・とにかく返事がなかったんです。このまま待つのもなんだし、といって僕にはカラスの面倒なんて看きれないし・・僕なりに悩んだんですよ、ホント⁉・・うん~もう正直言います! 本当は目の前のカウンターの上に置いて来ちゃいました!これでいいでしょうか?」
「えぇっ! 面倒看切れないからって、まさかそのまま、あなた何てことを、それじゃ体が冷えちゃうし、もしカウンターから落ちでもしたら、あなたどう責任とるんですか⁉」
「そんなに怒んないで最後まで聞いてくださいよ! 僕も『よちよち彷徨って落ちやしないだろうか』なんて心配でね、だから僕なりに考えましたよ・・我なりに名案が浮かんだんです、逆さにした僕の帽子の中にタオルを詰め、その真ん中にカラスの雛ちゃんを入れたんです」
先ほどは少しご立腹ぎみだった爺さん、口角を上げて言った。
「そりゃいい考えじゃないか!」
「本来、ジョギングするときの僕は帽子をかぶっているんですがね・・今日はほらね、今月はピンチなんで・・まだ」
青年は自分の頭に帽子が無いことを懸命にアピールしている。
さすがですよね、巣の代わりに自分の帽子を犠牲にし、体温を下げないようにとタオルを添えるなんて、若いのによくやるよねジョギング青年!
「帽子は買えなくて残念だけどタオルは幾つも持ってたんだね、いま首にしてるそれもスポーツメーカーのだから結構したんでしょうに」
「エッ⁉タオルですか? あの日帽子に詰め込んだタオルはですね・・あれはたまたまカウンターの上に置いてあったんで・・そう、それを使ったんですハイ! これって窃盗罪になるんですかね?」
爺さんは大笑いした、でも傍で話を訊いていた翔和にはよくわからなかったようだ。
「おじいちゃん、この雛どうすんの?」
そうだった、いつまでもジョギング青年の漫を聞いている場合じゃなかった。目の前の雛はどうなるんですか。
「それじゃ君はこの防犯灯の上にカラスの巣が有るって言いたいんだよね」
「そうです、あれは去年の春だったか、防犯灯の笠と器具の隙間にカラスが藁を運んでいるのを見たもんでね、そこでは雨が凌げるんだと思います」
爺さんは巣が作られているだろ防犯灯を見上げ腕組みした。そしてなにやら決心したみたいで翔和に向かって言った。
「翔和、私たちも交番へ行こう、この雛をこのまま捨て置くわけにもいくまい」
「だ、旦那さん、私も行きます、預けてある帽子も返してもらわないとね」
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