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№5
「なに⁉ 留守の方がよかったって?・・それって帽子の中の雛のことかな?」
「そう、あの時の帽子って僕の帽子なんです、もう要らないでしょ⁉ だったら返してもらえませんか⁉」
その言葉を確認したおまわりさんは待機室の奥へ足を急がせた、そしてゆるりと戻るその両手には帽子が掴まれていた。
「これのことかな?」
「あっ!それそれ、その帽子です!」
「じゃこれ返すから、二人ともさっさと帰ってください! 言うことを訊けないなら、公務執行妨害で逮捕するしかありませんが? どうします!」
「逮捕? そんな、それは権利濫用って云うんですよ!」
これも年の功、爺さん頑張ってますよね。でも次に発したおまわりさんの言葉には爺さんをはじめ、三人とも具のねも出なかった。
「あなた方の訪問のお陰で、カラスって嫌われ者なんだなぁってことを再認識したよ。いまあなた達が燕を育ててるって言ったよね⁉ 燕だってカラスだって成長すれば同じ黒い羽根を持つ野鳥じゃないですか、ただ燕は燕尾服でカッコいいかもしれないけど、俺も一週間ほど付き合ったけど、カラスの雛もかわいいぞ、どうです⁉ この際、燕と共に面倒看てやってくれませんか? 本来野鳥を飼うことは法律で禁じられています。でもあなた方は成鳥になれば自然界に還すことを目的としているようにお見受けした。
だから私はこれ以上野暮なことを言うつもりはありません。どうですかこのあたりで手を打ちませんか?」
「旦那さん、このお巡りさんってなかなかな人物ですね、どうします?」
「うん・・参りましたなぁ、返す言葉もございません。同じ黒だけど仲良くしてくれるかな? 翔和、同じようにまた頑張ってくれるかね」
「うん、いいよ、僕ならいいよ」
「あっそうだちょっと待って!」
おまわりさんが言った、そして再び待機室から何かを掴んできた。
「この虫かごにはこの公園で捕った昆虫が入っている、勿論私じゃないよ、私の息子がここ何日か前から捕獲したものだ、よければ貰ってやってくれ」
このお巡りさんだってこの帽子の中の雛、そのまま捨て置くことが出来なかったようだ。
―完―
本作品はフィクションであり、本編に登場する名称は人物はじめ全て架空のものといたします。
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