一緒に生きて一緒に死のう

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一緒に生きて一緒に死のう

 ルカは深夜になると食べ物を持って訪ねてくるようになった。  ルカが持ってきてくれたランタンの灯りがアリサの心を落ち着かせた。  二人が話をするのは僅かな時間だったが、アリサの孤独な心に微かに明かりがともるようだった。  二人が出会って二週間が過ぎたころだった。 「アリサ。僕の部隊はこの街を離れることになった」  いつかこんな日が来ると思っていた。また、独りぼっちになるんだ……。  アリサは悲しい気持ちを抑えた。 「今までありがとう。どうかご無事で、一日も早く国に帰れますように。わたし祈ってます」  ルカは首を横に振った。 「アリサ。僕は部隊には戻らない。ここに居ていいかな?」  それは死を意味している……。  アリサは必死になって言った。 「駄目よ。ルカ、あなたは生きなくちゃ。きっと生きて祖国に帰れる。私なんかのために命を無駄にしないで。与えられた命を粗末にしてはいけないのよ」 「アリサ。まだ幼いのに、そんな言葉が出るなんて。戦争はなんて残酷なんだ。ここに独りぼっちの君を置いていったら、その方が僕は苦しむことになる」  ルカは思わずアリサを抱きしめた。  ルカから父の香りと似た懐かしいほっとする匂いがして、アリサはルカの胸に顔を埋めた。 「僕たちは恋人同士でも兄妹でもない。でも、僕たちは出会った。これも運命だ。残された命、最後まで生きよう。アリサ、一緒に生きて一緒に死のう」  アリサは父と母を亡くしてから初めて声を出して泣いた。  ルカはアリサの背中をさすりながら、 「夜明けに部隊はこの街から隣町に移動する。僕が戻らなくても大丈夫さ。この街から脱走する術もないんだから。きっと、どこかで凍死でもしたんだろうとしか思わないだろう。僕はずっとアリサと一緒だよ」  ルカが持ってきた水と食料と地下の食料を合わせても二週間分くらいにしかならなかった。細々と食べたとしても……。  だがアリサは残された命を共に過ごす人がいることに幸せを感じていた。  ルカは人が死に絶えたこの街で幼いアリサが今まで生き残った奇跡に感謝した。  この先、万一部隊から抜け出した輩が来ないとも限らない。そのときアリサが見つかったら、殺すだけでは飽き足らず恥ずかしめを受けなくてはならないかもしれない。  自分が身を挺してでも最後までアリサを守ってあげたい。ルカは心の底からそう思った。  部隊が去るとさらに爆弾が街のあちこちに落とされた。人が息絶えたこの街の建物も何もかもを木っ端微塵にしないと気が済まないようであった。  この攻撃では万一隠れている人がいたとしても息絶えてしまう、そう思われた。  だが二人は生き残っていた。  二人はいつまでも起きてる間中話をした。いくら話しても尽きることがなかった。  ルカは様々な映画の話をアリサにした。  ヒーローが活躍する映画。動物の心温まる映画。ホラー映画。恋人が別れてまた巡り逢う恋愛映画も。  アリサは瞳を輝かせて聴いていた。  アリサを少しでも幸せな気持ちにしてあげたい。ルカはそう思った。  幼いときに両親を亡くしていたルカは、孤独なアリサの心が痛いほどわかった。アリサに自分を重ねていた。    アリサは花々が好きだった。 「近くの丘がカモミールの花で真っ白に染まるの。風にゆらゆら揺れるカモミールの花から、りんごの香りが微かに漂うのよ。ルカに見せて……」 アリサはそこで口を(つぐ)んだ。それは無理なことだ。もうすぐ命が尽きる……。  アリサはふぅーと息を吐くと、努めて明るい声で言った。 「ローマンカモミールっていうの。花言葉は逆鏡に負けない強さって、お母さんが教えてくれた。わたしルカと一緒に最後の最後まで生ききるから」  アリサもルカも日毎に痩せ細っていった。  二人は深夜になると裏庭に出て、アリサの父と母に手を合わせた。  そして星を眺めた。  ある夜、つーーと星が流れた。  アリサは急いで手を合わせた。 「アリサ、何を祈ったの?」 「平和」  アリサは寂しそうに微笑んだ。    
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