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二人の最後
やがて、食料もつきてしまった。
アリサは横になったまま殆ど動けなくなっていた。
意識が朦朧となることが多くなった。
ルカは力を振り絞ってアリサの手を握り話しかけた。
二人が暮らし始めてひと月になろうとしていた。
アリサは最後の力を振り絞るかのようにルカに声をかけた。
「ルカ……お願いがあるの。お父さんとお母さんのお墓に連れて行ってくれる?」
ルカも身体に力が入らなかった。それでも首肯くとアリサを抱いてゆっくりと震える脚を一歩ずつ前に出した。階段を上がる。アリサを落とすまいと必死に登る。
庭の墓の前に着くとルカはアリサを抱いたまま座り込んだ。もう動けなかった。
風もなく穏やかな日だった。ピンと張り詰めたような冷たさが肌を刺すようだ。
二人は墓の前で長い間手を合わせていた。
穏やかに顔を見合わせ、そしてどちらからともなく空を見上げた。
空は山々の稜線に沿うように茜色に染まっている。
まるで二人に手を差し伸べるかのように、太陽から地上に向かってすっと光の帯が伸びていた。
一面の真っ白な雪の世界が広がっている。
辺りは太陽の光を反射して細かい氷のつぶがきらきらと金色に瞬いている。
「アリサ、なんて綺麗なんだ。ありがとう。君が見せてくれた」
アリサは微笑んで、
「私こそありがとう、ルカ」と言いながら、ルカの頬に手を当てた。
「ルカ。あなたがいてくれて、わたし幸せだった」
アリサはルカに抱かれたまま、瞳を閉じた。
その瞳が二度と開くことはなかった。
微笑んでいるかのようなアリサの顔をルカは愛おしそうに見つめ、「よく頑張ったね」と言ってその髪を撫でた。
やがてルカも静かに瞼を閉じた。
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