もしも呪いが叶うなら ~初めて、こんなに、好きでした~

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 淡々とした口調で、無表情ながら、真っ直ぐな視線は言葉が男の本心であることを告げている。会話が続いたことにも驚いたが、胸の内を見透かされたようなセリフに園乃は意表を突かれた。動揺したが、微笑を作るのはわけない。男がさらに言葉を継ぐ前に、冗談にすることにした。 「何それ、女子高生ナンパしてんの。あたしモテるんだよね、自分で言うけど」  伸ばしてハーフアップにまとめた髪の手入れも丁寧にしているし、ファッション情報のチェックも欠かさない。体型にも十分気を使い、自分の肌に映えるリップ、チーク、ネイルの色も心得ている。思い上がりでない実際の成果もあるから胸を張れる。 「三分。本気のフリして目合わせたら大抵の男はその気にさせられるの。あんま続かないんだけどね。すぐ飽きちゃって。なんか、他にいいなって人いたら目移りしちゃうからさ」  そのあたりはほめられたものでなく、トラブルになることも数知れずだったが。 「カンジ悪いでしょ? こんなだから、女子ウケよくなくて。友達になってくれたの、マリコくらいだよ。すごいの、マリコ」  今でも鮮明に覚えている。 「もう他に彼氏できたし、こっちは別れるって言ってんのに、オレの女だってしつこい先輩にさ。あたしモノじゃない、って言い返したら殴られそうになっちゃって。そのとき、やめなさい!って助けてくれたんだよね。自分でも呆れちゃう、こんなあたしのこと、軽蔑しないでいてくれて」 〝移り気なのは、仕方ないじゃん。でも、二股にならないようにね。お付き合いは、誠実第一で〟 「って、お母さんみたいなこと言われて。てか母親にも言われたことないけど、そういうの。仕事遅くてほとんど話さないから」 〝いつか運命だ!って思うくらいの人に出会えたら。目移りしようにも、目が離せなくなるよ〟  マリコの笑顔は、陽だまりのように暖かい。思い出すだけで気持ちがほころぶ。 「二年になったら、マリコのクラスじゃなくなったけど。お昼一緒に食べたり、相変わらず友達でいてくれて」  一人でしゃべりすぎだな。自覚はあるが、一度口から流れ始めたどろどろのモヤモヤは、橋の下の濁流のようにとめどなかった。マリコだけの園乃には、マリコ以外に話せる相手もいない。 「彼氏に限らずいい出会いがあるといいねって縁結びのお守りくれたり、パワースポット教えてくれたりしててさ。あたしは運命の相手と恋に落ちるなんて、映画や漫画だからじゃんって話半分だったけど」  三か月前に、出会ってしまった。 「たまたま一人で映画館入ったら、たまたま見たことあったやつやってたの。ずーっと雨が降ってるんだよね、どこか外国で、石畳の町で、止まない雨見ながらカップルが部屋の中で話してて、最後のセリフ好きで、覚えてて。また見たくなって。観客少なくて。あたしが座った席の同じ列の端で見てた人がさ。やたら同じところで笑うの。他の人は反応しないところも、なんかあたしたちだけ笑ってて。途中と最後、泣いたタイミングまで一緒でさ。スーツ着てて、社会人の男の人なのに」
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