もしも呪いが叶うなら ~初めて、こんなに、好きでした~

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 映画が終わって、明るくなった館内で、席を立つとき目が合い。面白かったね、と声をかけられた。 「笑った顔。すっごい好きだなって、思って」  感想を話しながら、ロビーまで一緒に出てきて、ジュースを買ってくれて。飲み終わってもまだしゃべり続けていた。 「雨ばっかりだから、もう荷造りできてるのに、引っ越しするのが延び延びになっちゃってて。二人の会話が何気ないから、最後まで気付かないんだよね。一番、いいよねってシーンも同じで。彼が聞いて彼女が答えるの」 『雨が上がったら何したい?』 『デートしたい』 『いいね』 「雨がずっと上がらなくても、それもいいんじゃないって、女の人は笑って、二人で部屋で過ごすだけだから、って、見つめ合って。でも、最後は、って、盛り上がって。あたし、なんかそのまま帰れなくて。その日、ホントに雨降ってたから。映画の真似して言ってみたの。雨上がりにデートしたい、って」  すると、 〝雨、上がったらね〟  と笑ってくれた。 「映画みたいで。ヒロイン気分でときめいちゃった」  とくんとくんと鳴る胸は、ピンクのハートを園乃の体いっぱいに膨らませた。  翌日は晴れたので、すぐにいつ会えますかと連絡した。  膨らむばかりで止まらないときめきは、園乃にとっては初めてのことだった。 「あたし。いいなって思ったらさ、相手にすぐくっつきたくなるの。愛されてるって思いたいから。でもあの人にはそういうのも全然なくて、なんかあれもこれもってしゃべってて。それだけで楽しいんだからびっくりしちゃうよね。黙って一緒にいるだけでもいいくらい。並んで隣歩くだけで満足してるからさ、他にあれしてこれしてとか思わなくって。一人に夢中になって舞い上がってる自分がウソみたいで。でも本当にこういう気持ちもあるんだって。初めて、知って」  彼との出会いをマリコに真っ先に話したかったのに、話さなかった。いや、話せなかった。理由を口にするのに、ほんのわずかためらったが、今さら男にどう思われようと構わない。 「婚約者いるのは、わかってた。ちゃんと最初から言われたし。でもあたしは。大学生だって嘘ついた。いいじゃん、別に。会ったって、映画見るだけだし。カフェ入ったって、お茶するだけだし。お腹空いても、ご飯食べるだけだし。全然、手もつながないんだもん。悪いことしてないよね?」  否定も肯定もされないが、構わず続ける。 「でもさすがに。結婚しちゃったら。それでも会ってもらえるかなって。なんか焦って、だから。二人で部屋で過ごしたいって。必死にお願いしちゃった、もう会わないから、最後にするから、一度だけでいいから」  そして一緒にホテルに行った。そして見てしまった。 「あの人がシャワー浴びてる間に、スマホに着信あって。かけてきた相手の名前が」  如月(きさらぎ)マリコ。 「あたしの一年のときの担任。その人、マリコの婚約者だったんだよ」
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