最終話

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最終話

二〇二六年一月三〇日。水樹は「探偵社アネモネ」でカノープス及びアルネブと向き合って座っていた。今し方コーヒーを出して、昨日、依頼された「殺人犯のみを狙った連続殺人鬼」が、デルフィヌスに殺害されたという事実を、きちんと報告したところである。 「嗚呼、誰かに先越されちまったか」 怒られるか、何をされるのか、と警戒していたが、カノープスは仰け反って腹を抱えて笑い出した。アルネブも、「最近の『かちかち山』では、たぬきは死なない、と知った時くらいショックです」と言ったが、その顔が微笑んでいる。 「仕方がない。脅威は去ったんだから、よしとするか。何、物事は思い通りに行かないこともある。ポジティブに捉えようぜ」 カノープスは水樹の頭をわしゃわしゃと撫でて、札束を握らせてくる。受け取れない、と返そうとしたが、 「俺の渡したものを受け取れないってことはないだろう」 と、強引に笑顔で押し戻されたので、ジャケットのポケットにしまう。 「理人って言ったっけ、精神的なショックで何日か休みなんだろう? 直ぐに復帰できるとは言え、入院って言ったら心配だ。それで見舞いの品でも買ってやってくれ」 「カノープス様も丸くなられましたね」 「うるせぇな、アルネブ」 「まぁ私たち、もう大御所ですから、余裕を持って行かなくては」 と、アルネブは両手でカップを持ってコーヒーを飲み、「コーヒーを出してくださるなら、欲を言うならお菓子も欲しかったですね……カヌレ、マカロン、ラングドシャ――」などと指を折っている。 「うるせぇな、アルネブ」 「……つかぬことを伺うのですが、どうしてお二人は、その、犯罪で金を稼ごうと?」 水樹が問いかけると、カノープスは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。 「殺されたいと思う人間がいるか?」 アルネブも、しらっとして続ける。 「正しいことをしていても、殺されることはありますからね。水樹様もお気をつけになってください。案外、どこでも、振り返れば私たちのような悪党が、立っているかもしれませんね」 先の質問の答えになっているのか、いないのかすら、問い直してはいけない雰囲気だ。 「次にお会いする時は、二人でメロンパンサイダーを飲みましょう」 そう頭を下げると、アルネブとカノープスは――カノープスは、また部下に背負われて――この事務所を後にするのだった。
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