誕生日プレゼント

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おばあちゃん、ひゃくさいのたんじょうび、 おめでとう! 緑のミミズ文字でかろうじてそう読める言葉を 嬉しそうに綴る少年。 寝転びながら緑のクレヨンを握り、 床には肌色と灰色、黒、ピンクのクレヨンが 散らばっていた。 そんな息子を亮太の両親は微笑ましいといった 表情で見つめていた。 祝いの言葉の上にはお世辞にも上手いとは言えない 似顔絵がある。 肌色の大きな丸の中に大きさの違う両目。 祖母のカールした白髪混じりの髪を表したかったのか 灰色のクレヨンで雲のようなふわふわとした 髪を描いている。 明日は亮太の祖母、春恵(はるえ)の 百歳の誕生日である。 春恵は明朗快活とした気さくな性格で 友達が多かった。 百歳を間近にしても、畑の大根の世話や 日課の散歩を欠かすことはない元気な祖母だ。 亮太はそんな祖母が大好きで毎年 誕生日にはメッセージつきの似顔絵を プレゼントしていた。 春恵はプレゼントをもらうたび 亮太の頭をくしゃくしゃに撫で 「ありがとさん」と少年のような笑みを浮かべる。 その笑顔が見たくて、亮太は毎年 プレゼントを用意するのだ。 無論、春恵の娘であり、亮太の母でもある咲や 夫の翔もプレゼントを用意している。 春恵は服に頓着がなく、着られれば何でも着る。 畑以外に趣味がない母のプレゼントに毎回 難儀しながら何とか今回もプレゼントを用意した。 「母さん、今回のプレゼント喜んでくれるかしら」 「お義母さんは向日葵が好きだろう。 きっと喜んでくれるよ」 翔がにっこりと微笑み、咲も安心したように笑った。 このときはまだ亮太達は春恵の笑顔を想像していた。
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