悲報

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悲報

家族で川の字になって寝ている夜中、 咲はスマートフォンが けたたましく音を立てているのに気づいた。 時間を見ると十時二十分だった。 こんな夜中に電話をかけてくるなんて、 なんて非常識な人なんだろう。そう思いながらも 画面をスライドし、スマートフォンを耳に当てた。 「はい…もしもし」 「咲ちゃんかい?!あたし、英里子だ!! 大変だよ!春恵ちゃんが畑の中で倒れてんだよ!」 「え?」 「だからっ、春恵ちゃんが倒れてんのっ! 今、救急車呼んだから!」 春恵の友人である英里子の鬼気迫るような声に 咲はようやく事態を理解した。 「か、母さんがですか?!」 その声に翔が半身を起こして、メガネをかけた。 寝ぼけ眼でも何かあったということは察しがつく。 亮太は状況を知らずにぐっすりと規則正しい寝息を 立てていた。 英里子は眠れずに夜の散歩に出かけていたらしい。 近所の春恵の家を通りがかったところ 畑の中に倒れ込んでいるような人影が見え、 近づいてみると 春恵が倒れていたという。 咲は急いで病院に行くと英里子に伝え、 夫婦で慌ただしく、 パジャマから外出用の服に着替えた。 まだ寝ている亮太を車に取り付けてある チャイルドシートに載せ 母の家に保険証を取りに行く。 春恵は日頃から自分が何かあったときには 上から二番目の箪笥の引き出しに黄色いポーチが 入っているからそれを持っていけと言っていたので 保険証は難なく見つけることができた。 「まさか、母さんが倒れるなんて」 病院に向かう道中 自分が運転する横で 青い顔で瞳に涙を溜める妻を翔は優しく慰めた。 「大丈夫だよ、だってお義母さんは あんなに元気だったじゃないか」 「ええ、そうよね、そうよ。 きっと命に別状はないわ」 そう言いながらも咲の握りしめた手は 震えていた。
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