祖母の死

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祖母の死

「残念ですが、桜木春恵さんは亡くなっています」 医師の声が春恵の横たわるベッドのある 病室に無情に響いた。 咲は悪い予感が当たってしまったと 床に崩れ落ちた。 「……咲」 翔は顔を手で覆い、涙を流す妻の肩を抱く。 亮太はそんな両親と 横たわる祖母をポカンと 見つめていた。 お気に入りのロボットのおもちゃが 手に握られている。 目を閉じて白いベッドに横たわる祖母。 どうして、おばあちゃんは ずっと起きないのだろうか。 なぜ、父と母は泣いているんだろうか。 まだ七歳の亮太には死の概念が分からなかった。 「なんで泣いてるの、ママ」 亮太は咲に近づき頭を撫でた。 亮太が泣くたび咲がそうしていたように。 息子の優しさに涙の防波堤が決壊した。 「亮太……っ」 咲は泣きながら死の意味を理解できていない 息子を抱きしめた。 おばあちゃんが大好きな亮太は 近く死の意味に気づくだろう。 だから近い未来の亮太と現在の亮太を 咲はこのままずっと抱きしめてあげたかった。 その夜、病院の安置室で春恵の体は 葬儀社が来るまで寝かされていた。 やっと、葬儀社が迎えに来たとき、 亮太ははじめて異変に気づいたのであった。
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