二十歳

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二十歳

「亮太、新成人おめでとう!」 母さんが元気よく言って笑う。 「ありがとう、母さん」 俺は今日、成人式を迎えた。 紫色の着物を着て、黒地に金色の紋様が 入った袴を着ている。 髪には軽くパーマも当てて大人気分を味わって。 今日で成人か。 そう思うと感慨深い。 成人式が終わり、母校の入り口で 記念写真を撮りたいと母さんが言うので 母さんと並んで父さんにカメラのシャッターを 押してもらった。 「せっかくだから家族三人で撮りましょうよ」 母さんが言い、父さんを俺の横に並ばせる。 知り合いにカメラを預け俺たちはにっこり笑う。 「はい、オッケーです!みんないい表情だ!」 「ありがとうございます」 父さんが軽く頭を下げてカメラを受け取る。 「無事に成人式を終えられて本当に良かったわ。 亮太は赤ちゃんのとき、何度も熱を出して 死んじゃうかと思ってたんだから」 「母さん何度目だよ、その話」 「だって、亮太が成長してこの日を迎えられたのが 本当に嬉しくって」 「そうだよ、亮太。これからも大学生活 頑張るんだぞ」 俺は父さんの言葉に力強く頷き 亡くなったばあちゃんがくれたお守りを見つめた。 「ばあちゃん、俺、今日で大人になったよ。 あの日の贈り物、届いた? さすがに届いたよな。これからも  俺を見守っててくれよ」 七歳の頃、死神に預けた似顔絵は 天国に届いただろうか。 あの後、黄色い紙が何もない空間から降ってきて 『野山亮太様 贈り物は無事にお届けしました。 おばあ様から「ありがとう」とのことです                死神宅急便』 と書かれてあった。 後ど考えたら俺が悲しんでるのを見て両親が 誰かに演技してもらっていたのかもとか 思ったりもしたが、 今はあの似顔絵が返ってこないことが 死神宅急便が実在する証拠のように感じている。 すると赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。 ベビーカーの中の赤ちゃんと目が合い、 咄嗟に笑顔を見せると 赤ちゃんも嬉しそうな顔になって楽しそうに笑った。 「あら、春ちゃん泣き止んだのね」 母親がにっこり笑い、通り過ぎていく。 …もしかしたら、ばあちゃんの生まれ変わりかも…。 いや、そんなはずないか。 ばあちゃん、俺は、ばあちゃんの分も生きてるよ。 これからも、楽しく ばあちゃんみたいに いつも笑顔で暮らしていくから安心して。 空に向かって微笑むと、爽やかな風が吹いた。 (終わり)
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