ささくれ

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 辻切(つじき)南の煉瓦坂(れんがざか)のバルで飲んでいた。新年会を兼ねた高校の同窓会で、卒業して7年ほどのタイミング。話題の大凡は会社の愚痴で、その時意気投合した、というよりたまたま隣に座ったのは武仲(たけなか)という男だった。高校の時は話した記憶もない。けれど武仲は正月だと言うのに俺と同じように、いや、俺以上に酷く落ち込んでいて、重いため息をついていた。 「武仲、飲み過ぎじゃない?」 「飲みたい気分」 「まあ、正月だからね」 「さっきまで仕事してて、逃げてきた」  武仲は年が明けるずっと前から三が日の夕方の先ほどまで、ずっと会社に詰めていた。そして明日も当然仕事。 「やってらんねぇ」 「そう、だな」  俺の会社もたいがいだが、武仲の会社ほどではない。明日と昨日が仕事なのは同じだが、今日は一日休みだった。……他のホワイトな奴らから見れば俺と武仲は五十歩百歩で両方とも酷いブラックだろうが、ここに立てば差分の五十歩は果てしなく大きい。  だから顔色が酷く悪い武仲に同情的だったのは否めない。 「帰って休んだほうがいいんじゃない?」 「休むって何だよ。今寝たら朝起きればまた会社じゃん」 「まぁ、ね」 「リセットしたい。やってられるか」  武仲はそう吐き捨てた。  リセット。その意味はどちらだろう。ブラック企業に休みなんかなく、果てしなく現状が続く。武仲もこの休みのはずの時間でもやるべき仕事を持ち帰っている、はずだ。俺の鞄にも資料が入っている。だからこそ、少しでも忘れたくて来た。帰れば寝る時間はないかもしれない。それでも俺は今日の昼間寝ることができた。
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