ささくれ

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 翌朝、やけに重だるい気分で起床し、左人差し指が熱をもつのに気づく。ひょっとしてばい菌でも入ったのかとおそるおそる絆創膏をめくってみれば、指先は赤く腫れていた。消毒液をかければ僅かに染みた。 「坂巻、昼に病院行って来い」 「え?」 「倒れて労災になると面倒くさいんだよ」  俺のデスクを覗き込む部長が実に嫌そうに呟いた。  昼に病院に行けば混んでるし、飯が食えないじゃないか。ぼんやりとした頭でそう思えば、視界が霞む。体を動かすのが随分と億劫だ。それでも職場近くの病院の待合室に座り、もうすぐ昼休みが終わるから戻らなきゃと思ったタイミングで呼ばれた。 「棘が刺さってますね。炎症を起こしています」  初老の医者が目をしょぼしょぼとさせながら指を見る。 「昨日、抜いたんですけど」 「奥の方が残ってたんじゃないですか。中で折れたり砕けて破片が残って、それが芯になって魚の目になったりもするからね。すこしチクッとしますよ」  医者は無理やりピンセットをつっこみ、痛さに思わず叫びそうになる。カラリとトレイに茶色い小さな木の破片が投げ入れられる。 「これ、何の木ですか」 「そりゃわかんないよ、こんなにちっちゃいんだもの。消毒しとくから安静に」  昨日見た時と比べて随分とささくれた指先に消毒液はやはり染み、じくじくとした痛みとともに会社に戻って残業に突入する。いつもより酷く効率が悪く、頭の中はぼんやりする。武仲のことを思い出す。  武仲はちゃんと帰れただろうか。武仲に電話しようと思って、番号も何も聞いていなかったことを思い出す。そんなことをうっすらと考えつつ、気づけば明るくなっていた。
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