私だけの黒

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『黒』  そこは、どこにでもある平凡な小学校だった。一人の女子生徒がいじめられている、という一点を除けば、とても平和な教室だった。 「なーー、おまえなんか肌黒くね? 汚いって~~。ちゃんと風呂入れよ」 「そうだよーー。きっと病気なんだよーー。医者いってくればーー?」 「ウンコは肌に染み出てるんだろ。お前クッサいもん」  日々、無邪気な子供達が和気藹々と思いつく限りの悪口を彼女にぶつけていた。 彼女は幸せだった。 両親は「自分たちは教育を受けられなかった」「お金は稼げなかったけど、こうして家族を得て幸せになれた」「その幸せを、おまえにも味わってほしい」そう語って、むやみに勉強はさせなかった。塾に通わせることも教材を買い込むこともなく、のびのびと育てた。もっとも、いじめられていたので遊び相手はいなかったが。 共働き家庭だったが、二人とも最低賃金の環境で働いていたため、預貯金は全くなかった。まともな家賃を払う金もないためアパートには風呂がなく、毎晩銭湯に連れて行く金もないため、汗や垢の匂いを常に漂わせている。 時に少女は自身が揺らいだ。 「ねぇ、わたしの肌の色って汚いの?」  目に涙を浮かべて両親へ訴えた日もある。  狼狽えている彼女を、両親は強く抱き留めた。 「それは、おまえの特徴なんだよ」 「人間、誰だって、個人個人の美しさを持っているのよ」  抱きしめて語った両親の言葉を、彼女は受け止めていた。 いいんだ。幸せになるんだから。この黒さは、私個人の美しさなんだからー― そして翌年、彼女は持病の内臓疾患が悪化して死んだ。 肌が黒いのは内臓の不調が現れている症状だったのだが 幼い彼女はもちろん、両親も親族も誰一人わからず、症状を特徴と大切に受け止め続けて病を進行させていた。 葬儀屋に行く金がないため、彼女の葬儀は執り行われなかった。 その頃、教室では「ほらみろ、俺たちの言った通りだわ」「早く医者に行かねーーからじゃん」「やっぱバカな奴って親もバカなんやな」と苛めっ子が得意気に語り、クラスが楽し気に笑った。 教室は、これで完全に和やかとなった。
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