プロローグ

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プロローグ

令和5年7月24日、佐藤智人は高校の演劇部5名と海に遊びに来ていた。みんなで海中遊覧船に乗る事になり、ワイワイ騒ぎながら船に乗り込んだ。 24名乗りの遊覧船は船底の窓から海中が見えるのが売りで、彼らは泳ぐ魚が見える度に「スゲー!」と興奮していた。 田中悠平と三上省吾は他の乗客達をチラチラ見て、3人組の女子グループに声を掛けるタイミングを図っていた。 水原廉は海中を見るのに飽きてスマホでお笑いの動画を観ていた。高橋アレンはバイト明けで合流したので、疲れからウトウトしていた。 「アレは何だ?」 佐藤智人が指差すと、水原廉が視線だけ窓の方に向けた。田中悠平と三上省吾は相変わらず女の子達の方を見ている。高橋アレンは瞼が落ちかかっていた。 遠くから大きな黒い塊が近付いたと思ったら、遊覧船の右舷後方に激突した。クジラみたいな生物が方向感覚が狂ったのか、遊覧船と衝突してしまったのだが、凄まじい衝撃がして船底に亀裂が入り、船内は真っ暗になった。 「キャー!」「うわー!!」と悲鳴が上がり、壁に激突して腕の骨を折ったオッサンが「痛てえ!」と絶叫した。 亀裂から大量の冷たい水が流れ込み、あっと言う間に遊覧船は30m下の海底へと沈んで行った。 遊覧船に衝突したクジラみたいな生物は流血し、その傷が原因で翌日死んだ。 遊覧船は事故から5日後に引き上げられ、乗客24名と乗員2名の葬儀が行われたのだった。 佐藤智人は光輝く道が続いていたのでその道を歩いて行く事にした。道はどこまでも続いていたが、何日も歩き続けると広場に辿り着いた。まだ17歳の彼は、あっけない人生の幕切れに茫然としていた。 「もっと人生を楽しみたかったのに」 「彼女を作ってデートしたかった」 「両親と兄貴が悲しむだろうな」 自分は80歳以上は生きるだろうと当たり前の様に考えていたのに、こんな風によく解らないまま人生が終わってしまった。 広場には、最近亡くなった人達が集まっていて、思い思いに座ったり歩き回ったり浮遊していた。そんな佐藤崇典の元に、名簿を持った若い女性が近付いて来ると「こんにちわ」と声を掛けて来た。よく見ると頭には小さな輪っかがあり、背中には小さな羽が生えている。 「貴方のお名前は?」 「はあ、佐藤智人です」 「歳は?」 「はあ、17歳です」 「おお、随分若いねキミ」 苦笑いしながら、パラパラと手に持っていた名簿をめくる。しかし、 「あれれ?」「おっかしいな~」 と連発しながら、何度も名簿をめくっている。 「ゴメン、もう一度名前と年齢教えて。後は死亡した日と、どうやって死んだのかも」 佐藤智人は「なんだこの人は?」と思った。 「佐藤智人、17歳です。7月24日に友達6名で遊覧船に乗ったら沈没したみたいです」 それを聞いて「えっ!?」と声をあげた彼女。 「ちょ、ちょっとその場を動かないでジッとしててね!」 焦った声でそう言うと、小走りにどこかへ姿を消したのだった。 やがて彼女は男の人と一緒に戻って来た。男は長髪で髭を生やし、彼女よりも大きな輪っかと羽を持っている。 名簿を見ながら説明をする彼女。眉間に皺を寄せて思案する男。 「大変申し訳無い。どうやらキミは手違いで死んだ様だ。7月24日の事故死には、遊覧船の沈没事故は予定されていない」 「ええっ、どう言う事ですか?まさか僕は間違って死んだんですか!?」 「その通りだ。地球では一日に数百万人が死亡している。ごく希に手違いで死ぬ事があるのだ」 「こちらの手違いで死なせてしまって、誠に申し訳ありません」 深々と頭を下げる彼女。男の方は不機嫌そうな顔をしている。 「いやいや、「手違いがあるのだ」じゃ無いでしょ。それなら遊覧船に乗っていた全員生き返らせて下さいよ」 「誠に申し上げ難いのですが、皆様の身体は既に火葬されてしまいまして。魂を戻しても骨だけで動く事になるのです。それで宜しければ......」 「いやいやいや、そんなのダメに決まってるでしょ」 「ですよね~」 心底申し訳無さそうな彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしている。 「一つだけ、生き返る方法があるのだが」 長い沈黙の後に、男が言った。
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