黒川先輩はクロ以来のペットだった

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黒川先輩はクロ以来のペットだった。 名前の通り真っ黒な犬のクロは、私が生まれる前から我が家にいた大型犬で、目が隠れるほど長い毛の犬だった。私は言葉を話さない大きくて黒い塊に赤ん坊の頃から、育てられたから、他の人よりずっと雰囲気を読むのに長けている自覚はある。本当に優しい犬だった。 あの子が死んだ時は、悲しくて、悲しくて、まだ小さかった私は胸に押し寄せるするどい感情に耐えきれず「痛い、痛い」と言って泣き叫んだ。  悲しみは痛いのだと、その時知った。  そして、パパも、ママも、一つ下の弟も、私と同じくらい悲しんで、家中が涙でいっぱいになったころ、もう二度とペットは飼わないとみんなで決めた。    その誓いが、破られた中二の夏前。 「今日からうちで暮らす、くろちゃんです!」  子供の私達から見ても奇抜で、奇怪な行動が多いうちのママがいきなりそう紹介するから、私も弟も二人で顔を見合わせて唖然とした。 「黒川先輩?」  かなり猫背だが中学3年生で身長が180cm近くあり、しかも、うんと伸ばされた前髪のせいで表情はよく見えないが、すっと伸びた鼻や、形のいい唇から、かなりのイケメンであることがわかる黒川優先輩は、そのミステリアスな雰囲気から女子に大人気なのだ。  かっこよすぎて、ママが攫っちゃったのかもしれない。と、私は静かに青ざめた。 「やったー、お兄ちゃんじゃん」  適応はやっ!!  棒読みながらすぐさまポジティブな言葉を発した弟に驚いていると、ママがちっちっと指を振った。 「くろちゃんはお兄ちゃんじゃないの、ペットなの。  ねー、パパ?」  嘘だ、信じられない!とパパを振り返ると、パパは笑顔で頷いていた。  元凶は、むしろ後ろにいたようだ。 「そっかー。くろ、お手」  どんなと人でも柔軟に付き合って生ける才能がある弟は、すぐに黒川先輩に手を差し出し、先輩はゆっくりと大きな手を伸ばして、乗せた。  おおー。  と、謎の歓声があがる。  すると、今までパパの膝の上で、なりゆきを見守っていた11歳下の妹が、膝の上からするりと下りて、よちよちと歩いて黒川先輩に近づいた。妹はクロを知らない。  そして、首を反らして彼をじっと見上げると、黒川先輩は足元の小さな人を見下ろし、今度は腰を下ろして、妹の匂いを嗅ぐように顔を近付ける。  彼のうねった長い髪が揺れ、顔に当たることがくすぐったいのか、妹はきゃっきゃと笑い、黒髪をひっぱった。  なんてことを!  私は慌てたが、黒川先輩はクロのように動かずされるがまま、妹の様子をじっと見ていた。ママがそれを見て、 「お帰りくろ」  と、大きな体を後ろから抱きしめた。黒川先輩は静かにその胸に頭を預ける。  その姿は、先代クロにそっくりだった。
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