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進行方向は黒 2
今の職場が何社目か、すぐには思い出せなかった。中年で、学歴がなく、特筆に値する経歴も資格もない自分だった。生活には、当然ながら資金が入用で、その資金を捻出するために働かなければならなかった。得られた仕事に向き合い、心身を慣れさせ、職場にも馴染み、一応の社会人として自らを律するために、表面上は真面目に懸命に働かなければならないのだった。
また、あくびが出た。疲れと倦みに、眠気は顕著だった。工場から自宅までは車で一時間程度の道程だった。工場のある郊外から、より人口の少ない田舎町へと戻る、面白みのない帰路だった。
家に着くのは、二時半過ぎだろうか。帰りに酒と食料を買い、食べて、飲み、酩酊したままに今日を終えよう。そうして、静かに眠ろう。道路の端に点在する外灯の間隔が広くなり、着実に自宅に近づいていることがわかる光景に変じつつあった。車道が空いているために追突などの心配はなく、前方を注視しながらも気ままに走れる気楽さだけはあった。
途中、目の前の信号が赤に変わったのでブレーキを踏み、停止線の手前で車を止めた。アイドリングストップでエンジンが停止する。工場を出てから、初めての交差点での停車だった。
運転の中断に一息つき、なにげなく首のリンパのあたりを右手で揉むと、老廃物が詰まっているようなコリがあった。指先で軽くほぐしながら、信号の色の変化を待ち、あくびをもう一つする。頭では今日これからの過ごし方と、相も変わらず明日の仕事における自分の振る舞いについて考えていた。
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