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進行方向は黒 3
少しの間を置いて、右側の赤の信号が消える。進行を容認する青色が点灯し、車を再出発させる。そのはずだった。
しかし、異変が生じていることに気づいた自分はブレーキペダルから離しかけた足を元に戻し、信号を凝視した。
(……なんだ?)
赤から青に変わるはずの信号が、何色の光も発していなかった。青く光るはずの左側の電球は黒く沈黙し、指示を与えることなく、機能を停止させていた。戸惑い、停車していると、青が消えたまま真ん中の黄色の信号が点灯し、次いで赤に変わった。それは平常だった。進行を許されないまま、停止を求められる様に、非日常的な違和感を覚えた。
少々の時間の後、赤が消え、信号はふたたび黒一色となる。青色が姿を見せない状況のなかでブレーキペダルに足を乗せ続け、ただただ無機質な信号機を眺めるばかりだった。
――電球が、切れているのか? そう思った。普通、切れる前に交換されるはずなのだが。考えても、原因など知る由もなかった。
アイドリングストップによるエンジンの停止で、車内は静寂に満ちていた。こうしていても、仕方がなかった。家路につくには進む他に道がなく、再度アクセルペダルを踏んで進行する以外に適切な選択肢はないのだった。
Uターンし、他の帰路を選ぶことは可能だった。しかし、だいぶ遠回りになるため、手段として考えにくかった。なにより、馬鹿らしく感じた。警察への連絡も考えたが、面倒さが勝った。疲労した精神と体は、一刻も早い帰宅を要求していた。
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