進行方向は黒 4

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進行方向は黒 4

 目線を移す。バックミラーにもフロントガラスの向こう側にも他車の存在はなく、闇のなかに停車する自分の車が道路上にはあるばかりだった。赤く光っていた信号はふたたび黒く変じ、意味をなさない物体として、夜の空に重なって見えた。  ――黄色や赤でないのなら、進んでもいいのではないか。率直な思いが頭をもたげた。そうして周囲を一応確認した後、車をゆっくりと発進させ、停止線を越えて信号機の下を通り過ぎた。交差点を抜けた際には経験のない事態に心が揺れ、罪悪感めいたものが胸のあたりに確かに生まれるのがわかった。  酒と、つまみになる食料の購入を忘れたのに気づいたのは、帰宅して洗面所で手を洗っていた時だった。仕方がない、となにか落ち着かない心持ちでシャワーを浴び、八畳の居室で買っておいた菓子パンを食べ、布団に入り、眠った。寝る寸前まで脳裏には明日の勤務のこと、そして不具合を起こしていた信号機のことが浮かんでいた。
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