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進行方向は黒 1
仕事を終え、工場の駐車場から車を出したのは深夜の一時半だった。郊外の道路は夜深いこともあって車通りはなく、自分一人だけがこの時間帯に起き、移動しているような錯覚を覚えさせる、寂しい景色だった。
ハイビームの強い光が自宅までの道を遠くまで照らし、まだ先が長いことを自分に知らせた。あくびが出た。連続した。止まらなかった。三交代の、いわゆる準夜勤の週だった。今週は夕方から深夜の一時まで働き、来週からは夜勤で朝まで働くのだった。ひと月のなかで日勤と夜勤が入れ替わるイレギュラーな勤務に、順応がなかなか進まない体を恨めしく思った。
意識は眠気と疲労に麻痺し、ライン作業を立ちっぱなしで行っていたために、足には気怠さがあった。
前方には注意を向けつつ、脳内では帰宅後に腹に入れる食べ物と酒のこと、ひいきにしている野球チームの試合内容、それにも増して明日の仕事のことを退勤したばかりだというのに考えている自分の切り替えの下手さに、思わず嫌気が差した。今日は、仕事中にミスをした。馬の合わない年上の同僚とのコミュニケーションの不備もあった。明日はそれらを挽回しなければならない。そう考えると、今から気が重かった。
変則的な勤務時間。日勤、準夜勤、夜勤と決められたパターンを週ごとに繰り返し、その度に生活を適応させる必要があった。定型的な日常などあったものではなく、プライベートも人生もなにもかもが仕事に支配されている感が否めなかった。
だが、同僚の幾人かは経験の蓄積もあるのだろうが交代勤務にも慣れた様子で、特に新島という若い青年は夜勤をこなした後でも平気で遊びに行くというようなことを語っていたので、変則的な勤務に人生が牛耳られている、などと考えている自分が甘いだけかもしれなかった。
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