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「ミルクチョコです。イライラにいいですよ」
「……ありがと」
口に含むとホッとする甘さが全身を包み込んでくる。ああ、ちょっと落ち着いてきた。
「なにかありました?会議資料の不備で部長に怒られでもしました?」
「違うし!」
説明資料は伝え方が大事だ。一つの事柄の説明に同異義語を連発しない。「てにをは」には気をつける。基本に忠実に作成している資料は、修正が入ることなんて滅多にないんだから。
「そうですよね。黒木さんの資料いつも読みやすいですし」
「ぐっ……そうでしょうとも」
真顔で褒められるとちょっと照れる。
「じゃあ両面印刷の資料なのに片面にしちゃったとか?厚さ2倍でホッチキスしづらいですよね」
「してないわよっ!っていうかあの資料はもうセットされたの。つまり部長承認を得たから、来週の会議にはあれで勝負しますっ」
「さすがですね黒木さん。そして名前の通り瞬時に僕が言ったことを吸収して返してくれて。なんか楽しいですねぇ」
アッハッハと笑いながら飲んでいるそれは、強い甘さで有名なペットボトルコーヒーだった。
「甘いもの好きだよね、黒田くんって」
「別に甘いものだけじゃないです。食べ物飲み物は人を幸せにします」
「そうかもねぇ。……ん?ねえ、名前の通りってなによ?私が単純ってこと?」
黒田くんはニコニコしてコーヒーを一気飲みすると、ようやく自分のキーボードに手を移した。
「名前に『黒』って入ってるからってことです。僕もそうだけど」
「それがなにか?」
「黒ってなんで黒いと思います?」
「そういう色だからでしょ」
私はマグカップに入った自分のブラックコーヒーを見ながら答えた。まだ湯気がたっていて熱そうだ。
「面白いですね黒木さんって」
「どこがよ」
「言い淀まず、とりあえずなにか答えてくれて。本当嬉しいです」
「そんなことないと思うけど」
黒田くんは大げさな仕草で自分が着ているシャツに視線を落とした。今日は黒いポロシャツだった。
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