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「黒って、光を吸収するから黒いんですよ。それで、吸収した光を熱に変えます」 「へえ」 「なので真夏にこの色の服は熱々ですね。でも、そうやって吸収してしまって結果自分自身は何者にも染まらないスタンスが僕は好きです。それって最高に個性的ですよ」 全部吸収した上で何者にも染まらない黒かぁ。いや、それってまんまあんたのことじゃない? 「え?僕の顔になにかついてます?」 芋けんぴを食べ出した黒田くんを見つめてふっと笑いが漏れた。この子って本当に我が道をいってるなぁ。 「そういえば明後日から3連休ですけど。黒木さんはどこか行くんですか?」 「初日の夜だけ友達と飲み会かな」 「いいですね。実は僕も学生時代の友達と飲みに行く予定だったんですけどね。さっき発熱したとメールが来たので無しになりました。なので、なにか有意義な過ごし方をご教授いただけませんか?」 なんで私に聞くのよ?3日間も自由時間があるんだから好きに使えばいいのよ。 「趣味に走るとかすれば?」 「こういうとき趣味があるといいんですけどねぇ。いかんせん大学でも勉強して寝るだけの生活を続けてたせいでこんな無趣味な人間になってしまいました」 愉快そうに笑いつつ、芋けんぴをかじる歯音が聞こえる。 「あれ?でもこの間の異動の挨拶で『カクテル作り』と『登山』に興味ありとかいってなかっけ?」 実は彼がこの席に来て、まだ一ヶ月ほどなのだ。それなのに前任の業務内容をすべて吸収して抜かりなく仕事してるあたり、部長も私も頼りにはしている人材だ。 「それは本当に興味があるって程度の話ですよ。同期を登山に誘っても誰も行くって言いませんし」 「今の子はプライベートは自由に過ごしたいのよ」 「僕だって今の子なんですけど」 「あんたはちょっと別格。ほら黒だし?」 「なるほど」 納得するんだ。 「あと、カクテルは少したしなみますが、作って飲んだら終わりじゃないですか。連休中ずっとカクテル作ってるわけにはいかないじゃないですか」 作ってたらいいじゃん、と。言ったらため息を吐かれた。 「じゃあ実家に帰るとか?」 「お盆でもないのに?帰ってなにするんです?やることないのは一緒ですよ」 「ゲームするとか?」 「今やりたいゲームはありませんね」 「本とか漫画読むとか?」 「ずっと家で?目も首も痛めてしまいますよ」 「じゃあ・・・・・・出かけてみたら?」 「連休中はずっと雨ですよ?」 ああもうっ! ああいえばこういう! じゃあ聞くなよ。 本当、気が進まないことはなにもしない気だな。それって……あれ?なんかいいなぁ。 さっきトイレで感じた落胆や憂鬱が、ものすごく馬鹿らしく思えてきた。私もそういうのに敏感に反応してないで、全部吸収しちゃえばいいんじゃないかな……。 「そうだわ」 「なにがです?」 「今日さ、定時で帰るわ」 「僕だって残業なんかしませんよ。あ、ネギ味噌せんべい食べます?」 「食べるっ」 ............
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