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「おはよう黒田くんっ」 翌朝は諸々さっぱりして肩が軽くなっていて。既に出社していた黒田くんに笑顔を向ける余裕まであった。 「おはようございます。なんかいいことありました?」 「あのさっ。私漫画書いてるんだけどね」 今まで職場の誰にも言わなかった、秘密の趣味だ。なのに自然とこの子にカミングアウトしていた。 「漫画?へえ。僕の友達も昔書いてましたね。創作活動って楽しいみたいですね」 ほら驚かない。それに言いふらしたり馬鹿にしたりもしないだろう。 「入ってたコミュニティ、やめた。友達つくって親交を深めたかったけど。もういいや」 例によって、送った祝福メッセージには夏美さんも羽菜さんも無反応だった。共同チャットではお互いにちゃんと称え合っているメッセージが羅列され、まるで2人だけの世界。今度オフ会しようと盛り上がっていたのでそこにぶっこんでやったのだ。 『仕事忙しいからコミュニティ抜けるね』ってチャットしたら、それには2人とも即レスしてきた。『了解!』ってそれだけ。ちょっとイラッとしたけど、同時に黒田くんの間の抜けた顔が浮かんで、すぐ落ち着いた。 「あいつらの所業、いつかネタにしてやるっ」 ギャグ漫画にでもしてやろう。イラッとしたことも憂鬱も。全部吸収して私の創作活動の糧にしてやる。だって私は 「それでこそ黒木さんです。黒の鑑ですね」 「なによそれ。でもそうね。私もあんたみたいに個性的な黒になってやるわ!」 「黒木さんは十分に個性的な変わり者だと思いますけどね」 「......褒めてるの?」 「チョコ食べます?」 「食べるっ」 チョコは黒かった。今日はビターチョコレートらしい。黒度があがっていい感じじゃない? 「いい感じです」 私の心を読めるわけでもなかろうに。黒田くんは親指を立ててこっちに向けてくる。リアル『いいね』。すごい、実際にやる人を初めて見たかも。
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