機械仕掛け

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 あれから数カ月後―― 「リアム」 「ん、ライナーどうしました? まだ寝てていいですよ」 「歯車が噛み合ってない音が聴こえる」  男性(リアム)無名の青年(ライナー)の言葉にコーヒーを飲む手を止める。眉間にシワを寄せ「まだ変えたばかりなんですけど」と嫌そうな顔。 「この町の中央広場にある名物になってる大きな歯車の音。そろそろ危ないと思う」 「そんな大きな歯車を手に入れるのは無理かと」  朝の四時。  まだ、町の人々が眠る頃。二人はランタンで灯りない街を照らしながら中央広場へと向かう。歩くだけで分かる歯車やチェーン等を含めた部品が擦れ、噛み合う音。騒音に思えるかもしれないが都市では普通のことであり、日常音である。 「どこですか」 「アレだよ」 「んー。おっと、以上踏み込むと落ちそうですね」  機械の部品中心の都市のため簡易的な鉄棒で作った手すり。気を抜けば広場といえど下を見るや歯車やチェーン、細かな部品で組み合わさった奈落の底。  時間や月の外見を失った“元時計塔だったと言い伝えられる場所には時を刻むことのない大きな歯車”摺しかライナーが指差す場所はランタンでは見えない真っ暗闇の中。  リアムは今にもため息を漏らしそうだが「点検かい? 最近定期的で助かるよ。上層の上級貴族と比べちゃいい働きしてると思うのはワシだけかね」と杖をついた老人。 「あぁ、おはようございます。町長がもう起きているとは……」 「老人は暇だからのう」  冗談じゃよ、と笑われながら三人は上を見る。 「リアム、その青年が来てから町が安定しててな。電気の復旧と水のろ過、室内菜園など食糧困難もあるが少しずつ緩和しつつある。何でも屋として修理屋としても頼れる存在がいるのは心強い。初めは修理にしか目がなく戦えないと知ったときは驚いたが」 「その説はどうも。自分は何かと失うものが多いので……そのせいですかね。戦闘は得意じゃない直すのが専門なので」 「対機械武器専門整備士とやらで活動すればよかったものを。今頃、上の階層で裕福に暮らせたろうに」 「いえ、そこまでの実力はないですよ。自分は困っている人を助けるのが仕事だと思ってますから。それにいい助手がついたので」  何気なく話すリアムと老人。ライナーは聞かぬふりして上を見つめつつ大きさを測っているのはブツブツと小言。 「そうだ、リアム。歯車ついでに申し訳ないのだが町の外で騒ぎ立てる連中がいるようでな。もし、見かけたら追い払っておくれ」 「それは自分ではなくライナーにお願いします。戦闘員は彼なので」  老人の言葉にライナーは軽く手を挙げ反応するや「報酬の金額」と貧困激しい世界に対してキツイ言葉を返す。 「ライナー」  リアムは静かに怒ると「いいのじゃ。やってられないのは皆同じ。そうじゃのう……1000ギルで構わんかね」と老人は言う。 「その四分の一」 「ダメじゃよ。お前さん、育ち盛りじゃろ?」  その言葉にライナーは目を一瞬見開くも顔を背け「無償でいい」と逃げるように暗闇の中へ行ってしまう。
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