自由研究の思い出(21日目・自由研究)

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自由研究の思い出(21日目・自由研究)

「高校生だし、夏休みに自由研究の宿題は無いけどよ。小学生の時とか何やった?」 昼休み。 学食での十朱(とあけ)の問いに、僕は空を見上げる。思い出している間に、言い出した十朱がさっさと話し出す。 「俺と(しば)は共同研究で、行ける範囲のお化け屋敷とか無料のホラーイベント行って、何が怖かったか、どんな仕掛けが人気あるかとか調べた」 それは結構面白そう。 「それちょっと気になる」 「だろ?」 僕が言うと、十朱は嬉しそうににこにこ笑う。 「俺は、牛乳でいろんな飲み物割って、どれが一番美味いか調べた。結果は忘れた」 料理が上手い満寛(みちひろ)らしい研究。 「忘れたの満寛らしいね」 「意外に身体張ってんな、弓守」 「結果気になるなあ」 十朱と芝も結果が気になるのか、心無しか残念そうにしている。 「日田技(ひたぎ)は?」 そうだった。思い出した。 「近所のおじいさんの家の敷地に、何を植えても直ぐ枯れる場所があって。頼んでいろいろ植えて観察したんだ。本当に何でも枯れたよ。原因は最後までよく分からなかったけどね。今はおじいさんも亡くなって、家も壊されて、駐車場になってるけど」 十朱と芝は顔を見合わせ、満寛は溜息をついた。 「それは呪われた土地を調べよう、がテーマなんじゃねぇの?」 学校の宿題で、そんなおどろおどろしいテーマを掲げたことは、今まで一度も無い。 「提出出来ないよ、そんなテーマ」 「枯れまくってる時点でもう何かあるだろ、その土地」 「日田技は世間話みたいにこういう話出してくるから、油断出来ないよね」 芝は楽しそうに笑った。予鈴が鳴る。移動教室の十朱と芝は、バタバタと出て行った。 「宗也(そうや)、本当は枯れた理由、突き止めたんじゃないのか」 二人を見送った後、満寛がおもむろにそう言った。正直、満寛に言われるとは思って無かったから驚く。 「どうして分かったの?」 「じいさんが死んで、家も壊されて、駐車場になった顛末まで覚えてるのに、枯れた原因、つか本題の研究のとこだけ曖昧に濁してる感じがしただけだ。確信は無い」 僕は内心、舌を巻く。やっぱり、満寛に隠し事は出来ないかもしれない。 「隠そうと思ってたわけじゃないよ」 「言えって話じゃない。言わないのは、理由があるからだろ」 そう。実は結構な騒動が起きたし、想像するしか無い部分も多いから、詳細を大分省いたのだ。 「……もう少ししたら、満寛には話すよ」 満寛は黙って頷く。聞かないでくれる優しさに、今は甘えることにした。 「ありがとう」 高校には、夏休みの宿題に自由研究が無くてホッとしている。
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