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次の日から、十六夜たちは妻の純華が指名した『残り4名』の事情聴取を行うことにした。被害者のスマホを確認したのだが、確かに彼のアカウントで『容疑者5名』以外と連絡をとっていた節はなかったから、そこへ絞っていいだろうという判断だ。
最初に呼ばれたのは大手アパレルブランドに勤めるという寺井由美だった。黒の長髪は『フロントが見かけた怪しい人物』とは一致しないが。
「で、由美さんは被害者とはどういうご関係で?」
どう答えるだろうと興味のあった望月に、由美は妙なことを言い出した。
「どう定義していいか分からないですね。彼とは仕事上の情報交換がメインのビジネスパートナーでしたから。彼は大手化粧品メーカーの開発担当でしたから内部事情を情報共有できるのは相互にメリットがあったんです」
「浮気相手というわけでは?」
十六夜がやや意地悪に聞くと。
「お互いに『愛している』と認識していましたから、浮気相手には違いないでしょうね。もっとも彼は淡白で何もしてこないんで、そこは不満でしたけど」
「……会社の内部情報を交換するというのは?」
慎重に尋ねる望月に彼女は「無論、規律違反です」と言い切った。
「ですけど、この世界って綺麗事だけで進むわけでもないので」
「別れようとは思わなかったのかい?」
ずばりと切り込んだ十六夜に由美は。
「彼という光を失うことは、私には考えられなかったですね」
と小さく答えた。
次に呼ばれたのはルージュの工房を持っているという手石葵だった。彼女も黒髪で、ショートカットされている。
「で、葵さんは被害者とはどういうご関係で?」
とりあえず聞く望月に、葵は由美と全く同じことをいいだした。
「主に、といえばビジネスパートナーですね。彼はここ最近、色別の能力が落ちていて細かい色……特に黄色が見えにくいとこぼしてました。そこで私が彼のゴースト開発者となって新色を調合していたんです。下請けと言えるかも知れませんね」
しかし会社の命運を賭ける新商品の開発を勝手に外部委託していたとなると会社の規定上問題だったのは間違いあるまい。
「恋愛関係にあっという認識は?」
「ええ、私も彼もお互いを恋愛相手と見なしていたと思います。とりあえず、認識だけは。せいぜいハグぐらいしかしてくれなかったのが残念だったかな?」
「話だけお伺いすると『いいいように利用されてた』と聞こえなくもないですが、別れようと思ったことは?」
やや嫌味ともとれる望月の質問に葵は。
「私も彼を利用して私の作った新色がどれだけ世に認められるか試してましたから、お互い様です。いずれ独自のブランドを立ち上げるつもりでしたから、そのときもコネとして利用するつもりでした」
と、やや寂しそうに答えた。
「光の当たらない弱小ブランドなんて、とても生き残っていけませんからね」
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