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次に取り調べ室に呼ばれたのは、被害者の幼馴染で既婚者の田沼凛子だった。明るいブラウンの髪は肩の長さを超えるセミロングだ。
「ええ、同郷の幼馴染です。恋愛感情は当時からありましたし、今もあります。無論、不倫と呼ばれても仕方のないことだと思ってます。ホテルに呼ばれて飲み明かしたりしてましたし」
凛子も被害者との関係を一切否定しなかった。
「でもあなたは別の男性と結婚していらっしゃる」
望月の質問に。
「彼が純華さんと結婚しましたからね。本人は政略結婚とか仮面夫婦とか適当なことを言ってましたが彼女の父親は政財界に顔の利く大物ですし、別れるつもりはないと知ってましたから。私は子どもが欲しかったので」
特に悪びれる様子もなく。
「でも関係は続いていたんだろ?」
十六夜の追求に凛子は軽く頷いた。
「『損得勘定なしに語り合えるのは君だけだ』と言ってましたね。実際、他愛もない世間話で朝までブランデーを飲みながらおしゃべりしていたのは本当です。私もそのときだけは彼の妻になれた気分を味わえましたし」
そして凛子は自虐的な笑みを浮かべた。
「私は普通の人間で普通の主婦なんです。でも、彼という光が当たると輝けるんです。その瞬間は何物にも代えられなかったですね」
最後に呼ばれたのはファッション誌の編集者をしているという真下結那だった。腰まで伸びる長い黒髪。
彼女もまた、被害者との関係をあっさり認めた。
「それを不倫と言うのなら、確かにそうでしょうね。互いに恋愛感情はあったと思ってますから。でも彼が私に求めてきたのは身体の関係ではなく、彼が開発に携わった新商品を私が雑誌の記事に載せることです」
結那の発行しているファッション雑誌は20代から30代のOLを中心に高い支持を受けているという。最近はスマホでも閲覧できる電子版に力を入れているとか。
「あなたが被害者の開発した新商品を記事することで、商品の売上アップにつながる……と。当然、似たようなアプローチは他社からもあると思いますが?」
望月の疑問に結那はふふ、と笑った。
「当然、『営業』はひっきりなしです。なのに皆さん一様に『では広告費を』と電卓を持ち出した途端に顔が渋くなるんですよ。それは当然でしょ? って思うんですけどね。どれだけの文字数にしてどれだけの熱量を込めるのか、そこが我々の商売なので」
「だが被害者の件だけは電卓抜きで受けていた、と。それは社内の規律的に違反じゃないのかい?」
十六夜の追求に結那は。
「あくまで『個人的に気に入ったもの』として紹介するだけです」
と答えた。
「光の当っているものって、輝いて見えるじゃないですか」
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