痣(あざ)

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 最初に痣を見つけてから、ひと月が経とうとしていた。  朝、私は、顔を洗おうと洗面所へ向かった。  そして悲鳴を上げた。 「いやああぁっ!」  昨夜には痣が首のあたりまで来ていた事は分かっていた。  だが、相変わらず身体には痛みも何もない為、根拠もなく大丈夫だと思っていた。    ところが鏡に映っていたのは、黒く変色した自分の顔だった。首どころか白目も歯も口の中も真っ黒だ。どこにもそれ以外の色が無かった。  急に背筋が寒くなった。  そんな馬鹿な。つま先から頭のてっぺんまで、全身真っ黒。これじゃ親が見ても私だって分からない。 「私、どうなるの?」  そう、呟いたつもりが、声になっていなかった。 「あ、れ」  そう、こぼれた筈の声は、耳に入って来なかった。  な、に……?  ど、う、したの……?  声にならない。  気が付くと、傍に自分が立っていた。  何処にも痣の無い自分だ。  自分が、にやりと微笑んでいる。  どういうこと?  ひと月前までの私と、漆黒に変わった私。  これじゃまるで、私の方が影。  影……?  目の前の私がいやらしく唇を動かした。何か言ったのか。だが、もう、何も聞こえない。    黒い人型に変わった私は、出せない悲鳴を上げながら、見えない力によって床に引き寄せられ、とうとう薄っぺらく横たえられた。  私は、私の影になった。  
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