6人が本棚に入れています
本棚に追加
最初に痣を見つけてから、ひと月が経とうとしていた。
朝、私は、顔を洗おうと洗面所へ向かった。
そして悲鳴を上げた。
「いやああぁっ!」
昨夜には痣が首のあたりまで来ていた事は分かっていた。
だが、相変わらず身体には痛みも何もない為、根拠もなく大丈夫だと思っていた。
ところが鏡に映っていたのは、黒く変色した自分の顔だった。首どころか白目も歯も口の中も真っ黒だ。どこにもそれ以外の色が無かった。
急に背筋が寒くなった。
そんな馬鹿な。つま先から頭のてっぺんまで、全身真っ黒。これじゃ親が見ても私だって分からない。
「私、どうなるの?」
そう、呟いたつもりが、声になっていなかった。
「あ、れ」
そう、こぼれた筈の声は、耳に入って来なかった。
な、に……?
ど、う、したの……?
声にならない。
気が付くと、傍に自分が立っていた。
何処にも痣の無い自分だ。
自分が、にやりと微笑んでいる。
どういうこと?
ひと月前までの私と、漆黒に変わった私。
これじゃまるで、私の方が影。
影……?
目の前の私がいやらしく唇を動かした。何か言ったのか。だが、もう、何も聞こえない。
黒い人型に変わった私は、出せない悲鳴を上げながら、見えない力によって床に引き寄せられ、とうとう薄っぺらく横たえられた。
私は、私の影になった。
最初のコメントを投稿しよう!