君の涙に届きたい

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雪の降る夜に僕は生まれた。 公園のベンチの上に置かれた段ボールが、僕の家だった。 (寒い。寒い……) 誰かがハンカチをかけてくれた。 僕はそれをクシャクシャに抱いて、あまりにも眩くて美しい月を見上げた。 (僕はどうして生まれたんだろう) (この残酷な境界線に溶けてなくなる為……? まるで罪人だ) 願いがあった。 それは、もう感じられないぬくもりだった。 いつの間にか眠っていて、ふたたび目を開けると、小皿にミルクが注がれてあった。 僕はそれに舌を伸ばして、ペロペロとなめた。 なくなるまで味わった。 何か食べたい。 でも周りには誰もいない。 少しの間、飲んだミルクであたたかかった体も、すぐに冷えていく。 (体が痛い……) 寒さが体を蝕んで、痛みを感じて、こぼれた涙。 ぶるぶるぶるっと全身に甘い痺れが走った時、僕は死ぬんだと思った……。 ゆっくりと閉じた瞼。 雪の中に聴こえた、凍った大地を軋ませる音。 「寒かったな」 (……?) 瞳を開けたら、僕を囲む手のひらが見えた。 「早く見つけてあげられずに、ごめんな」 救いというものが、この世界にあるというのなら……。 『……ニャー……』 「ああ、抱きしめるだけじゃ伝わらないよな。家に帰ろう」 コートの胸元を開けて、僕を中に入れてくれた男。 聴こえる鼓動。 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。 (ああ、懐かしい……) 雪に濡れて波のように張り付く黒髪。 その奥で輝く、静かな海のような優しい瞳。 もう逢えないと思っていた。 前世の恋人。 だけど、僕の声は届かない。 右手の肉球を見つめ、僕は溜息をついた。
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