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家に着くと、すぐにお風呂にお湯をためて入れてくれた悠。
オケの中に、僕はちょこんと座ったまま、悠を見上げた。
お湯を片手ですくい、何度も何度もかけてくれて、そのお湯をすくう手にも、壊れないようにと思う愛のようなものを感じて。
成人した悠の目の下には、深いクマがあった。
僕が死んだのは悠が20の時。
あれから数年経ったのか、顔はあまり変わらないのに、やけに大人びた表情をしていた。
『……ニャー』
僕はそのクマに触れたかった。
それが悠の今を生きている証のように思えたから。
「ん? お腹空いたのか?」
タオルで包んで持ち上げられた僕は、すぐに首を振り、悠の顎をなめた。
くすぐったいと悠が笑う。
「ありがとな」
悠は僕の口にキスをした。
猫に転生したからこそなのだろうか?
たった一度のキスに至るまで、あんなに時間も心も費やしたというのに。
(猫で生まれてよかったのかな……?)
でも、なんだか浮気されたような複雑な気持ちになって、フーッと毛を逆立て、悠の指先を噛んだ。
「ごめん。ごめんな……」
途端、悠から2粒の涙が落ちて……。
僕は慌てて、その指をなめた。
悠は哀し気な顔をして、僕を見つめた。
それから暫く言葉をつむぐことはなかった。
話かけてこようとしてはやめる。
その繰り返しの後、ゴクリと唾を飲んだ。
そして、震える唇を開けて、勇気を振り絞るように言葉を発した。
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