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私が初めて黒歴史救済組合の方に出会ったのは、小学五年生の時だった。
教室の中、窓際の席に座っていた私は、三時間目の退屈な算数の授業を受けていた。
開け放された二階の窓から外を覗けば、忘れ物を届けに来たと思われるおばさんが校舎に向かって歩いてきているのが見えた。
給食まではまだ、残り一時間ある。
担任の女性教諭が黒板に向かいチョークを走らせている。
小数の掛け算だ。
昨日、お母さんにネチネチ言われながら予習した範囲だから内容は分かっている。
お母さんは宿題も予習復習もなくて良いよね。
昼間なんか、テレビでドラマ見て、お菓子食べて、ママ友と遊びに出掛けたりしてるんだよ。
つまんないな、と頬杖を突きながら黒板を眺めていたら、先生が書いた小数点の位置が間違っている。
先生が間違うはずないし、勘違いしているだけなんだろうけど、クラスの誰も指摘しない。
このまま、ノートに写したら、みんな間違えたまま覚えてしまうかも知れない。
これは、先生に言わなくちゃ!
慌てた私は手をあげて、勢いで思いきり叫んでしまった。
「お母さーん!」
あっ……。
さっきまでお母さんの事考えてたから、先生の事をお母さんって呼んじゃった。
教室中に響いた場違いな声にみんな呆然としている。
先生も振り向いて固まっているけど、しばらくすると状況を理解したのか、クスクスと笑い出した。
私が言い間違えたことに教室中が気付き始めて、ザワザワしだした。
恥ずかしさに耐えきれず、俯いてしまった私は、窓の外からの叫び声を聞いた。
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